« 【疑問】改善多項制って | トップページ | 議論するって、なんだかわくわく、しますね〜 »

2012年7月28日 (土)

答えは、自分で、なんとか、しろ、と!

ってわけで、改善多項制、もっと多方面からコメントがつくかと思いきや、全然そんなことはなくて、なんだか拍子抜け。まあねえ。一受験生のマイナーな疑問に過ぎないからなあ。そうそう盛り上がりようもないか。しかしそれはそれ、ワタシ自身はワタシ自身として結論をださなきゃなんない。ってわけで、こんな感じか。

【問1】
請求項1「**を特徴とする糸」、請求項2「請求項1の糸を使った織物」、の2つの請求項からなる特許権Aがある。特許権Aは甲と乙の共有に係る特許権である。甲は請求項1の糸を生産し、丙に販売した。丙は甲から購入した糸を用いて、請求項2に係る織物を業として生産した。この場合、乙は丙に対して請求項2に基づき権利を行使することが出来るか。但し請求項2に於ける発明特定事項は、請求項1のみであり、織物自体に別の発明特定事項が存在するのではないとする。

【答え】
乙は丙に対して請求項2に基づく権利を行使することは出来ない。理由は以下の通りである。

1.権利の消尽について
特許権者は権限なき第三者の業としての実施に対して特許権を行使することが出来る(68条)。ここで実施とは、2条3項各号に定める行為をいう。本問において乙は特許権者であり(33条)、乙はその持分に応じて権利行使できる(33条)とも考えられる(実施行為独立の原則)。

しかし、適法に販売された特許に係る商品についてはその権利は消尽するので、乙は権利行使することは出来ない(消尽論)と解する。商品の自由な流通の阻害の防止若しくは取引の安全確保のため、及び、特許権者の二重利得の防止のためである(最高裁BBS判決)。

2.改善多項制について
ここで、請求項1と請求項2は夫々独立した特許権であり、請求項1が消尽しても請求項2は消尽しない、とも考えられる(185条で準用する27条1号1項等)。しかしながら消尽論の効果は特許権ごとに生じ、請求項ごとに生じるものではないと解する。理由は以下の通りである。

1)185条における51条、66条、68条の不準用
特許法は、特許請求の範囲の記載について、請求項ごとの記載を認め(36条5項本文)、2以上の請求項に係る特許又は特許権について、規定の条文については請求項ごとに特許がされ、又は特許権があるものとみなす(185条)。ここで拒絶理由を有しない出願は特許査定され(51条)、特許権(68条)が設定の登録により発生する(66条)が、これらの条文は185条に準用されていないので、特許査定も特許権の設定登録も特許権も、請求項ごとにあるものとはみなされない。即ち本問においては請求項1に係る糸が丙に販売された際に、請求項2を含む当該特許権全体は消尽している。尚、185条に於いて、27条1項1号が準用されているが、これは特許原簿への登録に於ける形式についての規定であり、権利そのものが請求項ごとにあるとみなす規定ではない。

2)36条5項但書
法は、特許請求の範囲の記載について、一の請求項にかかる発明と他の請求項に係る発明とが同一である記述となることを妨げない、と規定する(36条5項但書)。発明の多面的保護のためである。同一である記述の請求項に基づき、二重に権利行使することは法目的に反するので(1条)、36条5項の規定は権利が請求項ごとに存在するのではないことを前提にしているものと考えられる。

以上

うーんうーん。もっと綺麗にまとめられる気がするのはいつものこと。出来の悪い答案を満天下に晒すような居心地の悪さを感じるが(って比喩にもなんにもなってないやんけ!)、まあ、自分で蒔いた種だ、しょうがない。えーっと、生産的なツッコミ、添削等ありましたらコメントよろしくお願いします。別解模範解答ならなおいいです。

論文の書き方、いや文章一般についての、書き方、もっと勉強(とゆーか修行とゆーか)しないと駄目だよなー。

終わってみれば客観的に見て論点ですらないなこれ。さて次ぃ!

にほんブログ村 士業ブログ 弁理士へ
にほんブログ村

|

« 【疑問】改善多項制って | トップページ | 議論するって、なんだかわくわく、しますね〜 »

720 弁理士試験」カテゴリの記事

コメント

消尽の効果は、請求項をベースに考えるよりも、特許権者が販売した製品をベースに考えるのがいいと思います。

特許権者がメガネを販売します。このメガネは、特許権者が保有する100個の特許の権利範囲に含まれています。特許には、製法特許、レンズの材料の特許、レンズの構造の特許、鼻あての部分の構造の特許、メガネ全体の特許など色々なものが含まれています。しかし、特許権者がメガネを販売すると、全ての特許が同時に消尽するので、このメガネに対する権利行使は認められません。

一方、特許権者が販売したレンズを使って、第三者がメガネを製造した場合はどうでしょうか?レンズの特許は、使えません。メガネの特許は、レンズの部分以外に特徴がある特許であれば使えそうです。

このように考えると、
・特許権者が販売した製品そのものに対しては、全ての権利が消尽
・特許権者が販売した製品と特許の観点から見て同一物の範囲内にあるもの(例:特徴のあるレンズ+何の変哲もないフレームからなるメガネ)→全ての権利が消尽。
・特許権者が販売した製品に新たな特徴を付加。その特徴部分が関与する特許は、権利行使可能。
のように整理できます。

2つの請求項が同じ特許の中にあるか、別々の特許に分かれているかによって結論が分かれるという解釈は、明らかに不自然です。

糸と織物が同じ特許の中であれば、糸の販売によって織物の請求項も消尽するが、別々の特許になっていれば、織物の請求項は消尽しないという解釈を裁判所が採用するとは到底思えません。

その観点から、「消尽論の効果は特許権ごとに生じ、請求項ごとに生じるものではないと解する」の解釈は、適切でないと思います。

投稿: skiplaw | 2012年7月31日 (火) 00時37分

skiplawさんこんにちは。
レスありがとうございます。
心から感謝します。

なるほど。面白い考え方ですね。
権利の消尽として捉えるのでなく、権利行使対象製品の性質として捉える、というか・・・。ちょっと斬新な切り口だと思います。

うーん。しかし、ワタシとしてはやっぱりに落ちない部分がある。以下、検討してみたいと思います。

skiplawさんの論の核心は、
>糸と織物が同じ特許の中であれば、糸の販売によって織物の請求項も消尽
>するが、別々の特許になっていれば、織物の請求項は消尽しないという解
>釈を裁判所が採用するとは到底思えません。
という部分にあると思います。

しかしそうでしょうか?糸の特許権(特許10001号)と、織物の特許権(特許10002号)の二つを特許権者甲が持っている場合を考えます。権原なき第三者が特許10001号に係る発明を実施したら、特許10001号に基づく権利行使が出来ます(68条、100条等)。そして、権利行使の後権原なき当該第三者が特許10002号に係る発明を実施したら当然、特許10002号に基づく権利行使が出来るはずです。何故ならこの二つの特許権は別々の権利だからです。そこでは二重利得は問題になりません。別の権利なのですから。

しかし、そうではなく、例えば「請求項1が糸、請求項2が織物である」特許10003号の場合は、これは権利はひとつですから、一度目で権利は消尽し、(実質的に生産と見做しうる場合等のほかは(インクタンク事件))、権利行使できない。権利行使するならばそれは二重利得であり、問題となります。一つの権利なのですから。

それならば世の発明者は別々の特許権として特許を取得するに決まっている?いえ、そんなことはない。

まず第一に別々の特許権として取れない、場合があります。元々の出題を見ていただきたいのですが、請求項1が「・・・を特徴とする糸」、請求項2が「請求項1の糸を使った織物」(所謂従属項ですね)なので、請求項2はそもそもこれだけで特許は取れないのです。これをはっきりさせるために、但書「但し請求項2に於ける発明特定事項は、請求項1のみであり、織物自体に別の発明特定事項が存在するのではないとする。」を付けたのでした。

また、上記但書がない場合、即ち、織物自体に別の発明特定事項が存在する場合、ということもあり得ますね。この場合、特許査定謄本送達(拒絶査定不服審判後の特許査定謄本を除く)から30日以内であれば出願の分割が出来ますから、分割して別出願にし、その別出願が特許査定されていれば、これは二つの特許権となりますから、最初に書いた10001号と10002号の二つの特許権がある場合、と同じことになります。即ち夫々別の権利ですからどちらも権利行使できる、ということです。
(それとも織物に別の発明特定事項があった場合、発明の単一性(37条)を満たさないとして実際には拒絶査定が来るのか(49条4号)?その場合であっても分割して37条違反を回避しつつ別途権利化という結論には違いがないが)

以上をまとめると、
1.別々の権利として取れるなら別々の権利として取る、そうすれば、夫々の特許権を行使できる。
2.別々の権利として取れないならそれはひとつの権利として保護されるべきものである。
ということになります。
そして、ひとつの権利ならば、権利行使したら消尽する。一方ふたつの権利ならば、別々に権利行使され別々に消尽する。これはごくまっとうな結論であって、裁判所が好んで採用するところではないかと思いますが。
以上から「消尽論の効果は特許権ごとに生じ、請求項ごとに生じるものではないと解する」の解釈は適切であると思います。

ながながと書いてしまいました。ごめんなさい。
skiplawさんの論を破るのに、もっと端的な1−2行のズバリ核心、みたいな指摘が可能な気がしてならないのですが、上手く言葉にできず、結果的にダラダラとした文章になったことをお詫びします。言いたいことは伝わってますでしょうか?
記載不備のご指摘、ご質問、再反論等、ありましたら是非よろしくお願いいたします。
ではでは〜。

投稿: toppo | 2012年7月31日 (火) 20時22分

BBS事件
「しかし、特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである」

権利行使をすれば消尽、ではなくて
「特許製品を譲渡した場合には、消尽」とBBSは述べています。この特許製品に対しては、どんな特許権を持ってきても権利行使を行うことができません。

「権利行使したら消尽する」との理解を前提にしているので、色々とややこしくなっていますが、「権利行使したら消尽する」の前提が違っています。
違法な製品に対しては、権利行使を行なっても消尽は成立しません。
この論文中の玩具事件ではっきりと述べています。また、BBS事件も「権利行使したら消尽する」とは述べていません。
http://www.skiplaw.jp/japan/data/reference_01_37.html

投稿: skiplaw | 2012年7月31日 (火) 23時49分

skiplaw様。コメント拝見致しました。ありがとうございます。心から感謝いたします。

>「権利行使したら消尽する」の前提が違っています。
了解しました。ご指摘ありがとうございます。実はこの部分は書きながらちょっと違和感はあったのですが、調べ直さず、一緒くたにして投稿しておりました。手間を惜しんではだめですね。議論を混乱させて申し訳ありません。

それでは改めて、この部分を修正して事案整理を試みます。

糸の特許権(特許10001号)と、織物の特許権(特許10002号)の二つを特許権者甲が持っている場合を考えます。甲は特許10001号に係る糸を生産し、乙に譲渡しました。乙は譲渡された糸を用いて特許10002号に係る織物を業として実施しました。この場合、特許10001号は特許製品たる糸の譲渡により消尽しています(消尽論)。しかし特許10002号に基づく権利行使が出来ます(68条、100条等)。何故ならこの二つの特許権は別々の権利だからです。そこでは二重利得は問題になりません。消尽も問題になりません。別の権利なのですから。

しかし、そうではなく、例えば「請求項1が糸、請求項2が織物である」特許10003号の場合は、これは権利はひとつですから、甲が乙に糸を譲渡することで権利は消尽し、乙の業としての織物の実施に対して権利行使できません。権利行使するならばそれは二重利得であり、問題となります。一つの権利なのですから。

それならば世の発明者は別々の特許権として特許を取得するに決まっている?いえ、そんなことはない。

まず第一に別々の特許権として取れない、場合があります。元々の出題を見ていただきたいのですが、請求項1が「・・・を特徴とする糸」、請求項2が「請求項1の糸を使った織物」(所謂従属項ですね)なので、請求項2はそもそもこれだけで特許は取れないのです。これをはっきりさせるために、但書「但し請求項2に於ける発明特定事項は、請求項1のみであり、織物自体に別の発明特定事項が存在するのではないとする。」を付けたのでした。

また、上記但書がない場合、即ち、織物自体に別の発明特定事項が存在する場合、ということもあり得ます。この場合、特許査定謄本送達(拒絶査定不服審判後の特許査定謄本を除く)から30日以内であれば出願の分割が出来ますから、分割して別出願にし、その別出願が特許査定されていれば、これは二つの特許権となりますから、最初に書いた10001号と10002号の二つの特許権がある場合、と同じことになります。即ち夫々別の権利ですからどちらも権利行使できる、ということです。
(それとも織物に別の発明特定事項があった場合、発明の単一性(37条)を満たさないとして実際には拒絶査定が来る(49条4号)?その場合であっても分割して37条違反を回避しつつ別途権利化という結論には違いはない。)

以上をまとめると、
1.別々の特許権として取れるなら別々の特許権として取る、そうすれば、夫々の特許権を行使できる。
2.別々の特許権として取れないならそれはひとつの特許権として保護されるべきものである。
ということになります。
そして、ひとつの特許権ならば、その特許権に係る特許製品の譲渡により消尽する。一方ふたつの特許権ならば、同じく消尽しますが、夫々の特許権に係る特許製品の譲渡ごとに別々に消尽する。これはごくまっとうな結論であって、裁判所が好んで採用するところではないかと思います。
以上から「消尽論の効果は特許権ごとに生じ、請求項ごとに生じるものではないと解する」の解釈は適切であると思います。

如何でしょうか。

特許製品の性質として把握するというスタンスは、実務上は役に立ち問題もないように思えますが、論文答案的に考えた場合、とても書きづらいのではないかと思えるのです。それよりは「権利の消尽」という概念一本で全て料理できるようにしておくほうがいいように思います。

今度こそ、いいたいことは伝わっておりますでしょうか?

ご案内戴いた論文も読ませていただきました。とても勉強になります。感謝しております。引き続き、記載不備のご指摘、ご質問、再反論等、ありましたら是非よろしくお願いいたします。

ではでは〜。

投稿: toppo | 2012年8月 1日 (水) 22時32分

「何故ならこの二つの特許権は別々の権利だからです。そこでは二重利得は問題になりません。消尽も問題になりません。別の権利なのですから。」の論理は合理的ではありません。

Aという構造に特徴を有する糸。
Bという材料を用いたことを特徴とする糸。
Cという弾性率を有することを特徴とする糸。

これらは、別々の特許になりますので、toppoさんの法理によれば、それぞれ別々に権利行使を行なっても二重利得にならないことになりますが、BBSの判示によれば、A,B,Cの特徴を有する糸を販売すれば、全ての権利が消尽します。別の権利だから、二重利得でないという論理は成り立ちません。

その糸を使った織物についての権利が消尽するかどうかは、織物に対して権利行使することが二重利得を呼べるかどうかによって定まる事実認定の問題だと思います。

toppoさんの設問のように、織り方に何の特徴もないような場合は、織物についての権利行使も制限されるでしょう。

一方、織り方に画期的な特徴がある場合には、その織り方を使った織物に対して権利行使を行うことは二重利得と言えない場合があると思います。このような場合には、権利行使が認められる可能性が高いと思います。

「二重利得」といえるかどうかで判断するのがBBSに沿った考え方になります。

糸と織物の請求項が1つの特許内にあるか、別々の特許にあるかで結論が分かれることを示した裁判例はないはずですので、独自の法理になってしまいます。論文試験では、独自の法理は禁物ですよ。どのように記載するのが、最高裁判例の考えに近いかに従う方がいいと思います。

それと、「織物に別の発明特定事項があった場合、発明の単一性(37条)を満たさないとして実際には拒絶査定が来る」は、明らかに誤りです。

糸に「特別な技術的特徴」があれば、その糸を特殊な織り方で織った織物は、単一性を満たします。別の特徴を有していることは、単一性の要件を満たすかどうかとは無関係です。

もう一つ、考慮すべきなのは、37条違反は無効理由ではないことです。実務上、審査官は、37条は厳格には適用しないので、37条違反の特許はありふれています(審査基準でも37条の要件は必要以上に厳格に判断すべきでないと記載されています。)。いいかえると、2つの請求項を別々の特許にすることもできるが、1つの特許の中に含めているという例は、ありふれています。

「消尽論の効果は特許権ごとに生じ、請求項ごとに生じるものではないと解する」という結論は、実体的な内容よりも、2つの請求項が1つの特許にあるか、別々の特許にあるかという形式的なことを問題にしていますが、それは、BBS事件判示に合っていないので、この法理を採用するのであれば、積極的な根拠が必要です。

投稿: skiplaw | 2012年8月 2日 (木) 00時50分

skiplaw様。コメントありがとうございます。心から感謝いたします。とても勉強になりますぅ。

まず、37条から。
>それと、「織物に別の発明特定事項があった場合、発明の単一性(37条)を満たさないとして実際には拒絶査定が来る」は、明らかに誤りです。
ご指摘ありがとうございます。
ですよね?特許法の審査基準で、縦に串刺しの図を見たように思いつつ、これも手抜きで、いい加減なことを書いてしまいました。申し訳ありません。
また、
>もう一つ、考慮すべきなのは、37条違反は無効理由ではないことです。
については、理解しているつもりです。
先のコメント(返歌)で、
>分割して37条違反を回避しつつ別途権利化という結論には違いはない。
と書いたのは、無効理由ではない(のでわざわざ別権利にする必要はないとも考えられる)が、権利行使においては、別の特許権とすることで、実益がある、ということをいうために書いたのでした。ソコは、大丈夫です。

んでは、本題です。skiplaw様の論の核心は、
>BBSの判示によれば、A,B,Cの特徴を有する糸を販売すれば、全ての権利が消尽します。別の権利だから、二重利得でないという論理は成り立ちません。
という部分に集約されていると理解しました(間違っているでしょうか?)。

欠けている言葉を補い、整理すると、
skiplaw説(以下S説)
消尽については、対象製品に着目することで、その対象製品について特許権(一般)につき「消尽している状態」か、特許権(一般)につき「消尽していない状態」か、判断する。
根拠はBBS事件判決文第二節のうち、次の部分である。欠けている言葉(一般)をかっこ書きで補っておく。
「特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権(一般)はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権(一般)の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。」

上記理解に立てば、ワタシの主張は誤りであることが明白です。別の権利であるかどうかは問題にもなりません。

しかし、ここでワタシが主張しているのはたぶん、BBS判決が言っているのは、上記の意味ではない、ということなのだと思います。
つまりこういうことです。上記と同様に、欠けている言葉(当該)をかっこ書きで補っておきます。
toppo説(以下T説)
「特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については(当該)特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや(当該)特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。」

BBS判決文を、こう、読めば、「別の権利だから、二重利得でないという論理は」成り立つように思います。

そうすると、つまるところ、BBS判決をどちらの解釈で読むのか(BBS判決はどちらの解釈を判示しているのか)、という問題に帰着します。

ワタシは当然T説の立場に立つ者ですが、それだけでは説得力に欠けると思われるので(なんせ言ってる本人だから)、S説によって生じる不都合を指摘することでT説の擁護を試みたいと思います。

特許権A、特許権B、特許権C、があります。何れも糸に関する特許権で、相互に独立した(利用関係にない)発明特定事項を持ちます。

さて、ある糸αが特許権Aを持つ特許権者甲により業として生産され、乙に譲渡されました。

S説によれば、糸αは特許権者により適法に譲渡された特許製品ですから、「消尽した状態」にあり、他の特許権の効力は及びません。特許権B、特許権Cは出る幕がありません。

特許権B、特許権Cが、甲の所有する特許権である場合は、この結論で特に不都合はありません。
しかし、特許権B、特許権Cが他の第三者丙の所有する特許権で合った場合はどうでしょうか。丙は、権利を持っているにも拘らず、自己の特許権を行使することが出来ません。これは不合理です。

また、逆の立場から言えば、特許権を行使する場合は、対象製品が当該特許請求の範囲に含まれるかどうか(70条)、以外に、対象製品が「消尽した状態にあるかどうか」を調べなければならないことになります(新規の法理?)これは不合理です。

以上のことから、BBS判決に言う特許権の効力とは、「当該特許権の効力を言う」ものと解するのが相当であると考えられます。

以下にBBS判決の、上記判決部分の含まれる第2パラグラフ全文をコピペしておきます。核心部分を””で囲ってあります。(コメントには文字に色を付ける機能がないので)

因みに判決文が、「譲渡した場合には」として、殊更に通常の特許権の効力(68条、「専有する」)と区別するような書き方をしているのは、特許権の権利行使と、特許権者自身の実施とでは、権利「全体が」用い尽くされているかという観点から行為の質に「差がある」ことを明確にするためであると思われ、譲渡した場合に「当該権利の消尽」とは別の法理が働くことをいいたいのではないのではないか、と考えます。

以上を踏まえて考えると
1.別々の特許権として取れるなら別々の特許権として取る、そうすれば、夫々の特許権を行使できる。
2.別々の特許権として取れないならそれはひとつの特許権として保護されるべきものである。
ということになります。
そして、ひとつの特許権ならば、その特許権に係る特許製品の譲渡により消尽する。一方ふたつの特許権ならば、同じく消尽しますが、夫々の特許権に係る特許製品の譲渡ごとに別々に消尽する。
以上から「消尽論の効果は特許権ごとに生じ、請求項ごとに生じるものではないと解する」の解釈は適切であると思います。

如何でしょうか。
勝手に乱暴な要約をして、論を展開しているので、skiplaw様の主張とは外れたまるで見当違いの反論となっているのではないかと一抹の不安を抱きつつ、現時点ではこれがワタシのMAXの理解ですので、おそるおそる、反論として提出させて戴きます。

引き続き、記載不備のご指摘、ご質問、再反論等、ありましたら是非よろしくお願いいたします。

ではでは〜。

以下引用。
2 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するものとされているところ(特許法六八条参照)、物の発明についていえば、特許発明に係る物を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等は、特許発明の実施に該当するものとされている(同法二条三項一号参照)。そうすると、特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者から当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)の譲渡を受けた者が、業として、自らこれを使用し、又はこれを第三者に再議渡する行為や、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業として、これを使用し、又は更に他者に譲渡し若しくは貸し渡す行為等も、形式的にいえば、特許発明の実施に該当し、特許権を侵害するようにみえる。”しかし、特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。”けだし、(1) 特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、(2) 一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、特許製品が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、特許製品の円滑な流通が妨げられて、かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し、ひいては「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」(特許法一条参照)という特許法の目的にも反することになり、(3) 他方、特許権者は、特許製品を自ら譲渡するに当たって特許発明の公開の対価を含めた譲渡代金を取得し、特許発明の実施を許諾するに当たって実施料を取得するのであるから、特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているものということができ、特許権者又は実施権者から譲渡された特許製品について、特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。
・・・判例 H09.07.01 第三小法廷・判決 平成7(オ)1988 特許権侵害差止等(第51巻6号2299頁)

投稿: toppo | 2012年8月 2日 (木) 22時51分

「しかし、特許権B、特許権Cが他の第三者丙の所有する特許権で合った場合はどうでしょうか。丙は、権利を持っているにも拘らず、自己の特許権を行使することが出来ません。これは不合理です。」

この場合、「特許権者丙による譲渡」に該当しないので、特許権B,Cは、消尽しません。特許権Aの特許権者(甲)による乙への製品の譲渡は、特許権B,Cを侵害します。従って、丙は、甲乙両方に権利行使が可能です。

この手の問題を考えるとき、「二重利得」といえるかどうかを基準に考えます。丙は、一度も利得を得ていないので、丙による権利行使が制限されるはずがありません。

また、他人による譲渡によって消尽が成立することはありえないので、「対象製品が「消尽した状態にあるかどうか」を調べなければならない」状況は生じ得ません。

投稿: skiplaw | 2012年8月 2日 (木) 23時35分

受験生時代に議論することは重要ですし、こうして理解が深まっていきますので、それは大変結構なことです。

ただ、これまでのやり取りを拝見して、toppoさんのスタンス(独自解釈を保持すること)を続けることは、決して試験合格の近道とは思えませんので、横から失礼してコメントさせていただきます。

コメント中でもskiplawさん(ご承知かと思いますが、事務所を運営されておられる弁理士です。)の説を「S説」とされて進められておりますが、本説はskiplawさんの説というより、当業界において通説です。

今一度、基本書に返り、まずは通説に基づいて理解を深めていかれるほうが試験合格には必要なことかと思います。
また、通説がどうしても納得いかなければ、もっと思考を柔軟にして、とりあえずは(納得いかないけど)色々な説があるがあるんだなという程度にとどめ、試験には(納得いかないけど)この説で論説を展開すると割り切ることも必要だと思います。試験に合格されて、晴れて弁理士となられたあとで、ゆっくり自説と通説との対比を検証されれば宜しいかと。

老婆心ながら、このままではちょっとまずいかも・・・と懸念しましたので、大変失礼かとは思いましたがコメントさせて頂きました。あくまでもtoppoさんの早期試験合格を願ってのものとご理解いただき、ご容赦いただければと思います。

追記)toppoさんの8/2コメントのまとめで気をつけないといけないのは、skiplawさんも述べられているように、特許製品の譲渡主体は誰かという視点が抜けていることかと思います。そもそも二重利得とは何ぞや?ということを今一度ご確認されてはと思います。

投稿: 一企業内弁理士 | 2012年8月 3日 (金) 10時49分

糸と織物とは異なるものでしょうし、また、「**を特徴とする糸」を販売したからといって、その糸を使った織物を販売したとは限らないでしょうから(例えば糸巻に糸を販売したような場合は織物とは言えない)、
その糸を使って許諾なしに製造された織物には権利行使できるのではないでしょうかね。
逆に、織物を販売したのなら、ほどけば糸が得られるので糸を販売したことになるしょうが、一般的には、最終製品を販売したからといって、中間生成物を販売したともいえないでしょうね。

投稿: あのー | 2012年8月 3日 (金) 23時53分

一企業内弁理士様。
コメントありがとうございます。心から感謝致します。
そして耳が痛いです。

大変失礼致しました。論の進め方にご不快、ご心配をお掛けする要素があったならば、誠に申し訳なく思います。ごめんなさい。

そうでしたか。通説でしたか。それはショックです。勿論受験生として、通説に従うことの重要性は認識しておりますし、通説に従うにやぶさかでありません。独自説に拘るつもりも全くありません。通説でしたか・・・。

まとめると、特許権の消尽は特許製品の譲渡によって生じ、その後の権利行使に際してはその権利行使が二重利得に相当するか否かで権利行使出来るか否かを判断するとするのが通説である。ということですね。

出来ましたらこの点(通説)に触れた基本書、参考書籍等をお教え願えませんでしょうか。標準特許法第4版、特許法概説第10版等には見当たらず、思い余っての質問投稿だったのでした。

また、skiplaw様。知らぬこととは言いながら、差し出た口をききまして、御無礼を申し上げました。お赦し下さい。

そして、一企業内弁理士様、skiplaw様。もしも宜しければ今しばらくお付き合いいただけると幸甚です。そんな一受験生の戯言に付き合ってられない、ということであればそれはそれで仕方ないこととは思いますが。

ここで原点の疑問に戻ります。以下、問1から問5まで、上記通説により解答を作成してみました。
問1
請求項1「**を特徴とする糸」、請求項2「請求項1記載の糸を使用した織物」、を特許請求の範囲とする特許権Aがある。特許権者は甲である。
甲により「**を特徴とする糸」が適法に生産され、乙に適法に譲渡された。乙はこの糸を使用して織物を製造した。甲は乙に対して権利行使出来るか。

答え1
甲は乙に対して権利行使できない。甲は乙に対して特許製品を譲渡しており特許権は消尽しているからである(消尽論)。

問2
問1の場合において、請求項2が「請求項1記載の糸を使用し、xxを特徴とする織物」であった場合はどうか。

答え2
甲は乙に対して権利行使できない。甲は乙に対して特許製品を譲渡しており特許権は消尽しているからである。

問3
それでは特許権Aが「**を特徴とする糸」、それとは別の特許権Bが「xxを特徴とする織物」であった場合はどうか。特許権Bの特許権者は甲とする。

答え3
甲は乙に対して権利行使できない。甲は乙に対して特許製品を譲渡しており特許権は消尽しているからである。特許権Bの甲による権利行使は二重利得と言えるので、甲は権利行使できない(二重利得の法理)。

問4
それでは特許権Aの特許権者が甲、特許権Bの特許権者が丙であった場合は丙は乙に対して権利行使できるか。

答え4
この場合は、丙は乙に対して権利行使できる。丙の乙に対する権利行使は二重利得に当たらないからでる。

問5
それでは問1において、特許権Aが甲と丙の共有に掛かる場合は、丙は乙に対して権利行使出来るか。

答え5
丙は乙に対して権利行使できる。丙の権利行使は二重利得ではないからである。

通説としては、以上で合ってますでしょうか?

問題は、問5です。
適法に糸を買って織物を作ったら、織物を作ると権利侵害になると言われる。その織物自体(織り方とか)にはなんら新規性等はないのに?糸を買った人間から見たらこれこそ二重取りですよねえ。というか、一企業内弁理士様が指摘されているように、この通説に立つ場合は、二重利得とは何か、という定義をしっかりさせないとマズイ、のですよね。

因みに消尽するのは当該特許権のみ、という異説に立つと、以下のようになります。

問1
請求項1「**を特徴とする糸」、請求項2「請求項1記載の糸を使用した織物」、を特許請求の範囲とする特許権Aがある。特許権者は甲である。
甲により「**を特徴とする糸」が適法に生産され、乙に適法に譲渡された。乙はこの糸を使用して織物を製造した。甲は乙に対して権利行使出来るか。

答え1*
甲は乙に対して権利行使できない。甲は乙に対して特許製品を譲渡しており当該特許権は消尽しているからである(消尽論)。

問2
問1の場合において、請求項2が「請求項1記載の糸を使用し、xxを特徴とする織物」であった場合はどうか。

答え2*
甲は乙に対して権利行使できない。甲は乙に対して特許製品を譲渡しており当該特許権は消尽しているからである。

問3
それでは特許権Aが「**を特徴とする糸」、それとは別の特許権Bが「xxを特徴とする織物」であった場合はどうか。特許権Bの特許権者は甲とする。

答え3*
甲は乙に対して権利行使できる。甲は乙に対して特許製品を譲渡しており特許権Aは消尽しているが、特許権Bは消尽しておらず、乙の行為は特許権Bを侵害するからである。

問4*
それでは特許権Aの特許権者が甲、特許権Bの特許権者が丙であった場合は丙は乙に対して権利行使できるか。

答え4*
丙は乙に対して権利行使できる。乙の行為は丙の特許権Bを侵害するからである。

問5
それでは問1において、特許権Aが甲と丙の共有に掛かる場合は、丙は乙に対して権利行使出来るか。

答え5*
丙は乙に対して権利行使できない。特許権Aに掛かる糸が甲から乙に対して譲渡されているので特許権Aは消尽しているからである。

やはり個人的にはこちらの結論のほうがすっきりしていて好みですねえ。
困ったものです。

一受験生の疑問に付き合っていただき、感謝しております。引き続き、記載不備のご指摘、ご質問、再反論等、ありましたら是非よろしくお願いいたします。

投稿: toppo | 2012年8月 4日 (土) 06時07分

あのー様。コメントありがとうございます。心から感謝いたします。
たまたま、議論の論点が消尽論を中心に展開していますが、本来は、あのー様が指摘されているように、改善多項制の持つ意味、についての疑問だったのだと思います。

あのー様のコメントをワタシなりに補足させて戴きます。

請求項1「**を特徴とする糸」、請求項2「請求項1記載の糸を使用した織物」、を特許請求の範囲とする特許権A。発明特定事項は糸にのみあり、織物(織り方等)にはない。特許権者甲が適法に特許権Aに係る糸を乙に販売。乙は糸を使って織物を製造。甲は乙に権利行使できるか。

あのー様の回答
糸と織物は別のものなので、甲は乙に権利行使できる。

これで合ってますでしょうか?
そうだとすると、ワタシが知りたいのは、そう言える根拠は何処にあるのだろうか(根拠条文はどれか)、ということなのだと思います。ぜひともご教授下さい。

また、感覚的には、これを許すと二重取りになる、と思われてならず。
更にこれはつまり消尽論の効果は請求項ごとに生じるのである、という解釈になってしまうと思われ。妥当でないように思われてしまうのです。

ワタシの要約の仕方、前提の置き方がマズイのかも知れません。記載不備、ご質問、等ありましたら是非よろしくお願いいたします。

投稿: toppo | 2012年8月 4日 (土) 06時32分

「感覚的には、これを許すと二重取りになる、と思われてならず」というのがこの論点の答えであると思います。

常識的にそのように感じる状況が二重利得である判断されるはずです。

例えば、ブリジストンの特許が以下の3つの請求項を有するとします。、
【請求項1】〇〇という特性を持ったゴムからなるタイヤ。
【請求項2】〇〇という特性を持ったゴムからなるタイヤを備えた車。
【請求項3】〇〇という特性を持ったゴムからなるタイヤと、このタイヤの凹凸を読み取って回転数制御を行うエンジンを備えた車。

ブリジストンがタイヤをトヨタに販売し、そのタイヤをつけた車をトヨタが消費者に販売するとします。
ブリジストンが「タイヤをつけた車」に対して権利行使できるかどうかが論点になりますが、タイヤを車に取り付けて販売することは、タイヤの販売時点で分かっていることなので、請求項2に基づく権利行使は二重利得になるでしょう。

一方、請求項3のようにタイヤ以外に特徴がある場合には、判断が微妙になります。色々な状況を勘案して、二重利得と判断される状況もそうでない状況もあり得るでしょう。タイヤの販売によって、車についての請求項について一律に消尽が生じないとするのも、一律に消尽が生じるとするのも、不合理だからです。

一律に消尽が生じるとしてしまうと、タイヤ以外の要素に大きな工夫を加えた車の特許が、タイヤの販売によって権利行使不能になるのは特許権者にあまりに酷であるのに対し、タイヤ以外の要素に工夫がない車の特許の権利行使を認めるのは二重利得そのものだからです。

従って、タイヤの販売によって、車の特許が消尽するかどうかは、タイヤの販売の形態(売買するものの関係、契約の内容など)と特許の内容に従って、決定されるべきことだと思います。

投稿: skiplaw | 2012年8月 4日 (土) 12時25分

 
後から横レス失礼いたします。

「skiplaw」さんは、2012年7月31日(火)00時37分のコメントに、次のように書かれています。

------------------------------
このように考えると、
・特許権者が販売した製品そのものに対しては、全ての権利が消尽
・特許権者が販売した製品と特許の観点から見て同一物の範囲内にあるもの(例:特徴のあるレンズ+何の変哲もないフレームからなるメガネ)→全ての権利が消尽。
・特許権者が販売した製品に新たな特徴を付加。その特徴部分が関与する特許は、権利行使可能。
のように整理できます。
------------------------------

しかし、特許権者が販売した製品であるレンズは、あくまでもレンズであって、メガネではないので、特許クレームが「特徴のあるレンズ+何の変哲もないフレームからなるメガネ」である場合、フレームに特徴はなくても、当該レンズの販売は、「特許製品の販売」には該当しないのではないでしょうか。

また、仮に、このレンズがメガネ以外にも使い得る(メガネ専用品ではない)のであれば、当該レンズを他人が製造・販売等しても、関節侵害にも該当しないと思います。

そうすると、特許権者による当該レンズの販売によって、上記「メガネ」の特許権は消尽しないのではないか、と考えますが、如何でしょうか。

この点について、「あのー」さんも、2012年8月3日(金)23時53分のコメントに、次のように書かれています。

------------------------------
糸と織物とは異なるものでしょうし、また、「**を特徴とする糸」を販売したからといって、その糸を使った織物を販売したとは限らないでしょうから(例えば糸巻に糸を販売したような場合は織物とは言えない)、
その糸を使って許諾なしに製造された織物には権利行使できるのではないでしょうかね。
------------------------------

また、「skiplaw」さんは、2012年8月4日(土)12時25分のコメントに、次のように書かれています。

------------------------------
例えば、ブリジストンの特許が以下の3つの請求項を有するとします。、
【請求項1】〇〇という特性を持ったゴムからなるタイヤ。
【請求項2】〇〇という特性を持ったゴムからなるタイヤを備えた車。
【請求項3】〇〇という特性を持ったゴムからなるタイヤと、このタイヤの凹凸を読み取って回転数制御を行うエンジンを備えた車。

ブリジストンがタイヤをトヨタに販売し、そのタイヤをつけた車をトヨタが消費者に販売するとします。
ブリジストンが「タイヤをつけた車」に対して権利行使できるかどうかが論点になりますが、タイヤを車に取り付けて販売することは、タイヤの販売時点で分かっていることなので、請求項2に基づく権利行使は二重利得になるでしょう。
------------------------------

この仮想ケースでも、特許権者が販売したのは、あくまで「タイヤ」であって、「車」ではないので、当該「タイヤ」は、「〇〇という特性を持ったゴムからなるタイヤを備えた車。」という特許発明の実施品ではなく、特許製品には該当しません。

BBS最判も、あくまで「特許製品を譲渡した場合」に、特許権が消尽すると判示しています。

ただ、この場合、タイヤは車の専用品と言えるでしょうから、間接侵害の議論も必要になってくるかもしれませんが。

投稿: 中堅実務者 | 2012年8月 4日 (土) 18時17分

skiplaw様。コメントありがとうございます。心から感謝いたします。

>「感覚的には、これを許すと二重取りになる、と思われてならず」というのがこの論点の答えであると思います。

ですよね?ですよね?ワタシもそう思うのです。ソコは100%同意できるのに、尚、問題点が残りますね。それは「これを許すと二重取りになる(から二重取りは許さない)」という、この論点の答えを、特許法上、どうやって位置づけるか、という問題点ですよね。

BBS判決を「特許製品の譲渡による当該製品に関する特許権の消尽」と「二重利得の法理」とでもいうべきものを判示していると読み、権利侵害においてこの2つの概念を新たに導入して説明するのが、通説とのこと。

コレに対して、BBS判決を、「特許製品の譲渡による当該特許権の消尽」、を判示していると読み、譲渡による当該特許権の消尽、で全てを説明しようとするのがワタシの唱える異説。

通説に異を唱えるほどの莫迦でなし、との古川柳もあります。自説に拘るつもりは全くありませんが、自説のドコがマズイのか、論理的に突き詰める必要はあると思っています。それが法律家(のタマゴ)に課された宿命だと。単純に考えて通説に敗れる「理由」があるはずですから。ソレを知りたい。ただそれだけです。

因みに、挙がっている、請求項3の車の特許の例。ワタシの感覚では、それが特許性を備える発明だったのなら、別出願にしておけば済んだ話、に思えてなりません。それをタイヤの発明の従属項として特許請求の範囲に書くから困ったことになっているのだと。特許権は、仮に同じ発明を出願したとしても、特許請求の範囲や明細書の巧拙で、広い権利にも狭い権利にもなる。使いやすい権利にも使いにくい権利にもなる。その意味で、同じ発明が、どの特許権の請求項として書かれているかで結論が変わるのは、実は当然だ、と思っているのです。

そもそも請求項3の「車の発明」は特許性を判断されていないのではないでしょうか。だって各請求項に共通する発明特定事項は「◯◯からなるゴム」ですから、特許性の実体的要件は特許庁は「◯◯からなるゴム」しか見ていない。このままだとその特許庁が判断していない車の発明の特許性について、裁判所が判断することになりかねませんよね?すると、そんなことは裁判所は知らん。同じ特許権の中に入っていればソレは消尽したんだし、別の特許権なら、それは別の権利だろ、って裁判所が如何にもいいそうじゃないですか。我ながら難儀な性格だなあ・・・。妄想が止まらん。

というわけで、妄想を止めるべく、通説に関する基本書、参考書等のご教授、心からお願いいたします。このままでは眠れなくなる・・・。

また、ワタシの解釈の誤り、記載不備、ご質問、等ありましたら是非ご指摘よろしくお願いいたします。

投稿: toppo | 2012年8月 4日 (土) 19時50分

中堅実務者様。コメントありがとうございます。心から感謝致します。

ご指摘戴いている下記の部分が多分ワタシが知りたいことの核心だと思います。
>BBS最判も、あくまで「特許製品を譲渡した場合」に、特許権が消尽すると判示しています。
中堅実務者様は、その名の通り、中堅実務者様なのだと推察致します。そこで質問なのですが、ここで言う特許製品とは、請求項1の糸のことを指し、請求項2の織物を指さない、という理解で宜しいでしょうか。ここで言う特許製品が「請求項1、請求項2等を含む、特許件全体に係る製品」と解釈する余地はないのでしょうか。実は、実務家の方は、比較的抵抗なく前者の考え方に馴染んでいらっしゃるようだと推測しているのですが、この解釈の根拠は、どこにあるのでしょうか。

また、この解釈が正しいとすると、ワタシの元の論文「答えは、自分で、なんとか、しろ、と!」の冒頭結論部分「乙は丙に対して請求項2に基づく権利を行使することは出来ない。」は間違っていることになると思います。本試なら一行目でアウト、です。がーん。

実務上、糸を売った後に、それで織物を作った人に権利行使するような例というのはありふれたものなのでしょうか?ワタシの感覚ではどうしても二重利得に見えてしかたないのですが。

一受験生の疑問にお手を煩わせまして誠に申し訳ないのですが、出来ましたら上記疑問にお答え戴けないでしょうか。何卒よろしくお願いいたします。

投稿: toppo | 2012年8月 4日 (土) 20時23分

【請求項3】〇〇という特性を持ったゴムからなるタイヤと、このタイヤの凹凸を読み取って回転数制御を行うエンジンを備えた車。

のような請求項は、別特許にしたとしても、「〇〇という特性を持ったゴム」の部分に進歩性があれば、残りの部分は見なくても特許になります。「〇〇という特性を持ったゴム」以外の部分に発明的な特徴があるかどうかは、別々の特許にしたところで分かりません。

部品と完成品の関係はここに詳細i書きました。
http://skiplaw.blog101.fc2.com/blog-entry-453.html

投稿: skiplaw | 2012年8月 5日 (日) 00時30分

 
たびたびのレス、失礼します。

toppo さんが何度か書かれているように、この問題の本質には、「改善多項制」とは一体何なのか、という現行の特許制度の根幹にも関わる重大な問題があるのだと思います。

改善多項制の導入以降、「請求項ごと」に発明があるのだと考えられるようになりましたが、この点についても、toppo さんが何度か書かれているように、36条5項後段には「一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。」と規定されていて、一件の出願や特許に含まれる複数の請求項のそれぞれに係る発明は、相互に同一発明である場合もあれば、相互に別発明である場合もあり、それらが混在している場合もあるけれども、特に区別することはしない、という割り切りになっているのだと考えます。

ところが、これらの各請求項に係る発明を別出願とした場合には、39条1項・2項の規定がありますから、同一(実質同一も含む)の発明については、拒絶理由・無向理由が生じることになり、別発明でなければ、別々の特許権を得ることはできません。

さて、それで、「**を特徴とする糸」と、「**を特徴とする糸を使った織物」とが、同一発明なのか別発明なのかというと、少なくとも現行の審査基準によれば、これらは別発明ということになるでしょう。(※個人的には、後述するように、これらは実質同一の発明ではないかと考えますが。)

なので、これらの発明は別出願としても、現行の特許庁の運用では、39条1項・2項によって拒絶されたり特許無効となることはないと考えられます。

また、これらの発明を一出願の中の別々の請求項に記載した場合、それが許容されるのは、「同一発明」について規定した36条5項後段が根拠となるのではなく、別発明(二以上の発明)を一の願書で出願できる要件を規定した37条(発明の単一性)が根拠となります。

そして、「**を特徴とする糸」の発明と、「**を特徴とする糸を使った織物」の発明を、同一人が別々の出願として、それぞれ特許権を得た場合、特許権者が「**を特徴とする糸」を販売したとしても、それは「**を特徴とする糸を使った織物」の特許製品には該当しませんので、「**を特徴とする糸を使った織物」の特許権が消尽することはなく、当該「糸」を購入した者が、それを使って織物を製造し販売すれば、「**を特徴とする糸を使った織物」の特許の侵害になるのではないか、と考えます。

もっとも、特許権者にとって、「糸」の購入者は、重要な顧客や取引先でしょうから、そのような者に対して「織物」の特許権を行使することは、現実的にはあり得ないでしょう。あくまでも「頭の体操」ということで検討を進めます。

さてさて、問題は、「**を特徴とする糸」の発明と、「**を特徴とする糸を使った織物」の発明が、別々の請求項として、一つの特許に含まれていた場合です。

toppo さんが書かれていたように、185条には、〔二以上の請求項に係る特許又は特許権についての特則〕として、二以上の請求項に係る特許又は特許権について、限定列挙された特定の条文の規定の適用については、「請求項ごとに特許がされ、又は特許権があるものとみなす」と規定されています。

そして、185条に列挙されている条文には、27条1項1号〔特許原簿への登録〕が含まれており、そこには次のように規定されています。

27条
 次に掲げる事項は、特許庁に備える特許原簿に登録する。
 1.特許権の設定、存続期間の延長、移転、信託による変更、消滅、回復又は処分の制限

これらの規定だけを見ると、特許権についての、「設定」、「存続期間の延長」、「移転」、「信託による変更」、「消滅」、「回復」又は「処分の制限」は、全て「請求項ごと」に特許がされ、又は特許権があるものとみなされるかのようですが、実際には、特許庁で「請求項ごと」に特許原簿の登録を行っているのは、特許権の「消滅」(特許無効審決の確定や特許権の放棄等による)だけで、特許権の「設定」や「存続期間の延長」、「移転」等については、二以上の請求項が含まれていても、特許又は特許権の全体を一体不可分として取り扱っているようです。

さらに、これも toppo さんが書かれていましたが、185条に限定列挙されている条文には、100条から106条までの「権利侵害」の節の条文が一つも含まれていません。

このことから、特許権の侵害については、「請求項ごと」に特許や特許権が存在するのではなく、あくまで特許番号で特定される1つの特許又は特許権を一体不可分として取り扱うとされているのだと思います。

ただ、この点については、まだ学説が統一されていないようで、特許権の侵害についても、「請求項ごと」に取り扱うべきであって、侵害訴訟の訴訟物や既判力の範囲も「請求項ごと」だという説も存在しています。

そうすると、「**を特徴とする糸」の発明と、「**を特徴とする糸を使った織物」の発明が、別々の請求項として、一つの特許に含まれていた場合に、特許権者が「**を特徴とする糸」を販売した行為によって、「**を特徴とする糸を使った織物」の発明に係る特許権までが消尽するか否かは、185条の規定振りから言えば、権利侵害に関しては、特許権は「一体不可分」だから、特許権全体として「消尽する」ということになりますが、先に述べたように、侵害訴訟の訴訟物や既判力の範囲も「請求項ごと」だという説も存在しますから、これらの説に従えば、この請求項については「消尽しない」ということになります。

結局のところ、実際そのような事件が起きてみないと、裁判所がどのように判断するかは分からない、というのが、さんざん長々と書いてきた答えになります。申し訳ありません。

なお、個人的には、そもそも、「**を特徴とする糸」と、「**を特徴とする糸を使った織物」とは、織物等に用いる「**を特徴とする糸」について、先行技術に存在していた何らかの課題を解決し特許性が認められた、実質的に同一の発明について、保護を求める範囲の表現を変えたもの同士なのではないか、と思っています。

この考え方に立つと、両者を別々の出願でクレームしても、相互に実質的に同一の発明なので、39条1項又は2項により拒絶・無効になるということになると思いますが、これは現行の特許庁の運用とは整合しないですから、実務の上では、そのような考え方は忘れた振りをしています。

以上、大変な長文コメントになってしまい、失礼いたしました。

投稿: 中堅実務者 | 2012年8月 5日 (日) 00時49分

、「**を特徴とする糸」と、「**を特徴とする糸を使った織物」が39条で拒絶されないのが特許庁の運用とのことですが、これらは周知慣用技術の付加・転換・削除に該当するではないでしょうか?

このような出願をした経験がないので、特許庁がどういう判断をするのかについて経験がありませんが、同一人からの出願の場合、特段の弊害もないので、39条は「目をつむる」という感じでは?

同じ内容の請求項であっても、別々のものからの出願であれば、39条(又は29条の2)が適用されるのではないでしょうか?

投稿: skiplaw | 2012年8月 5日 (日) 07時12分

skiplaw様。コメントありがとうございます。心から感謝いたします。
2012年8月 5日 (日) 00時30分の投稿
>【請求項3】〇〇という特性を持ったゴムからなるタイヤと、このタイヤの凹凸を読み取って回転数制御を行うエンジンを備えた車。
>のような請求項は、別特許にしたとしても、「〇〇という特性を持ったゴム」の部分に進歩性があれば、残りの部分は見なくても特許になります。「〇〇という特性を持ったゴム」以外の部分に発明的な特徴があるかどうかは、別々の特許にしたところで分かりません。

は、ワタシのtoppo | 2012年8月 4日 (土) 19時50分の投稿
>そもそも請求項3の「車の発明」は特許性を判断されていないのではないでしょうか。だって各請求項に共通する発明特定事項は「◯◯からなるゴム」ですから、特許性の実体的要件は特許庁は「◯◯からなるゴム」しか見ていない。

に対して、反論されたもの、という理解で宜しいでしょうか。(複数のコメントがあるため、対応関係の整理が必要な状況になっています。)

skiplaw様の仰ることはよく分かります。特許庁はゴムに係る発明特定事項しか見ておらず、車部分の(ゴムに係る発明特定事項以外の別の)発明特定事項については、見ていない、と。だから、それを別出願にしたところでそれが特許査定されるかどうかは不明、ということですよね。
それ故に、skiplaw様は
>一方、請求項3のようにタイヤ以外に特徴がある場合には、判断が微妙になります。色々な状況を勘案して、二重利得と判断される状況もそうでない状況もあり得るでしょう。タイヤの販売によって、車についての請求項について一律に消尽が生じないとするのも、一律に消尽が生じるとするのも、不合理だからです。

と書かれています。ワタシがいいたいのは、上記にある「二重利得と判断される状況もそうでない状況も」ありうる、という事態は、「判断されていない部分」の特許性について判断しなければ結論が出ない、ことから生じているように思える、ということです。

そしてそれは、二重利得性について判断するために、特許庁に判断されていない部分の特許性について、裁判所が判断しなければならない、ことを意味しています。この結論はどう考えても美しくない。それもこれも「二重利得性」というものを特許法にない新たな概念として導入したのが原因です。

二重利得の定義を、特許法の既存の概念の中で料理すれば、このような問題は生じない、と思います。なので、シンプルに当該特許権ごとに消尽する、とするのが合理的だと思うということです。(消尽は当該特許権ごと、とし、消尽した権利を再度行使するのが二重利得、とする)

そして、ここが肝心なのですが、最高裁BBS判決を読めば、素直にそう読めてしまうと思うのです。

通説に関する基本書、参考書等のご教授、心からお願いいたします。
また、ワタシの解釈の誤り、記載不備、ご質問、等ありましたら是非ご指摘よろしくお願いいたします。

以下再引用。
2 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するものとされているところ(特許法六八条参照)、物の発明についていえば、特許発明に係る物を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等は、特許発明の実施に該当するものとされている(同法二条三項一号参照)。そうすると、特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者から当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)の譲渡を受けた者が、業として、自らこれを使用し、又はこれを第三者に再議渡する行為や、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業として、これを使用し、又は更に他者に譲渡し若しくは貸し渡す行為等も、形式的にいえば、特許発明の実施に該当し、特許権を侵害するようにみえる。”しかし、特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。”けだし、(1) 特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、(2) 一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、特許製品が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、特許製品の円滑な流通が妨げられて、かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し、ひいては「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」(特許法一条参照)という特許法の目的にも反することになり、(3) 他方、特許権者は、特許製品を自ら譲渡するに当たって特許発明の公開の対価を含めた譲渡代金を取得し、特許発明の実施を許諾するに当たって実施料を取得するのであるから、特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているものということができ、特許権者又は実施権者から譲渡された特許製品について、特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。
・・・判例 H09.07.01 第三小法廷・判決 平成7(オ)1988 特許権侵害差止等(第51巻6号2299頁)

投稿: toppo | 2012年8月 5日 (日) 11時38分

中堅実務者様。コメントありがとうございます。心から感謝いたします。

非常にわかりやすくすっきりと整理して戴き、胸のつかえがとれた思いです。長文、お手間を取らせまして誠に申し訳ありませんでした。

37条、39条も絡んでくるのですねえ。素朴な疑問のつもりが思いの外根が深い問題点を含んでいることが分かり、自分の知識の再構築には格好の題材となっている感があります。ホントにありがとうございます。

中堅実務者様のコメント中に
>さて、それで、「**を特徴とする糸」と、「**を特徴とする糸を使った織物」とが、同一発明なのか別発明なのかというと、少なくとも現行の審査基準によれば、これらは別発明ということになるでしょう。(※個人的には、後述するように、これらは実質同一の発明ではないかと考えますが。)
とありますが、これは何条の審査基準でしょうか。

というのは、特許法の39条の審査基準を見ると、
第 39 条により発明が同一か否かの判断の対象となる発明は「請求項に係る発明」である。
第 2 条によれば、発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものとされているから、発 明が同一であるか否かの判断は技術的思想の同一性を判断することにより行う。たとえ実施の態様が一部重複しうるとしても、技術的思想が異なれば同一の発明とはしない。
とあります。

そして技術的思想の創作の同一性は発明特定事項を認定して引用発明と本願発明を対比することにより行いますから、そうすると、「**を特徴とする糸」と「**を特徴とする糸を使った織物」は、織物部分に別の発明特定事項を含まなければ、技術的思想の創作としては(即ち発明としては)同一である、とされるのではないでしょうか。

つまり、この場合の糸と織物は、実施の態様が異なるだけで、同一の発明であるという解釈です。

ならば、「**を特徴とする糸」の出願人が、別出願として「**を特徴とする糸を使った織物」を出願したとしても、39条1項違反で拒絶になると思われます(49条2号)。同一発明に特許を与えれば、特許権の実質的延長となり法目的に反するからです(1条)。

(申し訳ありません、ちょっと所用で抜けなければなりません、途中ですが一旦ここで失礼します。後ほど続きをアップいたします。)

投稿: toppo | 2012年8月 5日 (日) 12時35分

 
skiplaw さん、 toppo さん、コメントありがとうございました。
 
skiplaw さんは、2012年8月5日(日)07時12分のコメントで、次のように書かれています。
 
------------------------------
「**を特徴とする糸」と、「**を特徴とする糸を使った織物」が39条で拒絶されないのが特許庁の運用とのことですが、これらは周知慣用技術の付加・転換・削除に該当するではないでしょうか?
このような出願をした経験がないので、特許庁がどういう判断をするのかについて経験がありませんが、同一人からの出願の場合、特段の弊害もないので、39条は「目をつむる」という感じでは?
同じ内容の請求項であっても、別々のものからの出願であれば、39条(又は29条の2)が適用されるのではないでしょうか?
------------------------------

そのようなクレーム同士を別出願とした事案は多くはなさそうなので、特許庁で39条について如何なる判断がされるかは、実際に出願してみないと分からないかもしれませんが、「糸」と「織物」では対象製品が異なるので、その発明特定事項の相違は、周知慣用技術の付加・転換・削除には該当しないと考えます。

例えば、明細書に癌の治療薬として有用な新規な化合物Aを開示し、「化合物A」自体をクレームした先願を出願した後、その先願の公開公報が出る直前に、同一人が、先願と全く同じ内容の明細書で、「化合物Aを含む医薬」や「化合物Aを含む癌の治療薬」をクレームした後願を出願したような事案でも、後願は39条1項によって拒絶されてはいないようです。

個人的には、このような後願は、先願と比較して何ら新たな技術的貢献をしていないし、実質的な権利期間の延長という弊害もありそうなので、実質同一の発明として扱うべきではないかと思っていますが、もし、そのような主張をして無効審判を請求をしても、それが認められるかどうは分かりません。

もちろん、他人の先後願の関係ならば、どちらが先願でも、29条の2が適用され、先願によって後願は拒絶・無効になるでしょうね。

問題は、29条の2に出願人同一の場合の適用除外があることだと思っています。この点、欧州ではセルフコリジョンで後願は自滅しますし、米国でも自明型ダブルパテントによって拒絶になりますよね。

これで、toppo さんの2012年8月5日(日)12時35分のコメントへの回答にもなっていると思います。
 
だんだん受験とはかけ離れたマニアックな議論になってきてしまい、申し訳ありません。
 

投稿: 中堅実務者 | 2012年8月 5日 (日) 14時33分

 
私の2012年8月5日(日)14時33分のコメントに少し補足させてください。

この先のコメントでは、「**を特徴とする糸」と「**を特徴とする糸を使った織物」が別出願だった場合、現行の審査基準に従えば、39条1項・2項では拒絶されないと考えられる、と書きました。

そして、これらが同一人の同日出願(分割出願と親出願の関係も含みます)だった場合には、実質的な権利期間の延長の弊害も生じないので、skiplaw さんが指摘されたように、39条違反には「目をつむる」という感覚も、何となく分かる気もします。

しかし、これが他人の同日出願だった場合には、問題が深刻化するように思います。

二人(二社)の特許権者は、「織物」については、両者ともお互いの権利に抵触して実施できませんし、「糸」についても、関節侵害の主観的要件が適用されるなら、両者とも自己実施ができなくなります。

そして、第三者にとっては、「糸」についても、「織物」についても、実施するには両方の特許権者にライセンス料を支払う必要が生じ、まさに二重払い(四重払い?)の負担が生じてしまいます。

やはり、これは不合理な状況なので、特許庁でも、他人の同日出願の場合には、39条2項違反に「目をつむる」ことはないかも知れません。

もっとも、実際には、他人の同日出願の両方に「糸」の請求項と「織物」の請求項が記載される可能性が高いでしょうから、その場合には、39条2項の拒絶理由にも何ら無理がありません。

しかし、もし仮に、39条6項の協議指令に対して、両出願人が、こっそり裏で手を握って、両出願のクレームを「糸」と「織物」で分け合って、「糸」の発明と「織物」の発明は同一ではないと徹底して主張した場合には、現行の審査基準では、39条2項違反で拒絶査定にまでは至らないように思います。

そうすると、両権利者は裏で手を握っていますから(不可侵密約?)、それぞれが「糸」と「織物」を実施しても、お互いに権利行使はしないことになります。

そして、「糸」の特許権者となった甲が特許製品たる「糸」を販売し、それを購入した丙が「織物」を製造し販売した場合には、「織物」の特許権者となった乙が、権利侵害を主張できることになります(何故なら権利者が異なるので「織物」の特許権は消尽していないので)。

さらに、乙が丙から得たライセンス料や損害賠償金の一部を、こっそり裏で甲に渡すようなことがあれば、まさに利益の「二重取り」になりますね。

ここまで考えると、同一人の同日出願の場合についても、例えば、「織物」の特許権を自社の息のかかった他社に移転すれば、上記と同じ問題が起き得るので、出願人が同一人か他人かで39条2項の適用に「目をつむる」か否か判断が変わるというのは、不適切だと思えてきました。

ますますマニアックな机上の空論になってしまい、恐縮です。

投稿: 中堅実務者 | 2012年8月 5日 (日) 18時04分

中堅実務者様。コメントありがとうございます。心から感謝いたします。
(以下は2012年8月 5日 (日) 14時33分のコメントに対する返歌です。)

>だんだん受験とはかけ離れたマニアックな議論になってきてしまい、
いえいえ、そんなことは全くありません。とても勉強になります。中堅実務者様のコメントに触発され、37条、39条等の青本と審査基準を読み直しているところです。ありがとうございます。

さて、先の投稿の続きです。尤も、2012年8月 5日 (日) 14時33分に前半部分に対する回答を戴いておりますので、話はある意味簡単です。

1.「**を特徴とする糸」の発明と「**を特徴とする糸を使用した織物」の発明との関係について
ワタシとしては、これら2つは同一発明である、という立場を採ります。根拠は39条の審査基準です。発明特定事項は「**を特徴とする」であって、糸と織物という、実施の態様が異なるだけで、技術的思想は同一といえるからです。糸と織物だから別発明である、とはいえないということです(2条1項)。
以下審査基準を引用します。
第 39 条により発明が同一か否かの判断の対象となる発明は「請求項に係る発明」である。第 2 条によれば、発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものとされているから、発 明が同一であるか否かの判断は技術的思想の同一性を判断することにより行う。たとえ実施の態様が一部重複しうるとしても、技術的思想が異なれば同一の発明とはしない。

一方、中堅実務者様は新規な化合物Aの例を例示され、実務上は特許庁はそのような判断はしないようだ、と仰っているようです。この点については、引かれている例は事案が異なっていて、用途発明として特許されたのだと解釈し得る、と思いますが、如何でしょうか。

そう考えると、中堅実務者様の
>なお、個人的には、そもそも、「**を特徴とする糸」と、「**を特徴とする糸を使った織物」とは、織物等に用いる「**を特徴とする糸」について、先行技術に存在していた何らかの課題を解決し特許性が認められた、実質的に同一の発明について、保護を求める範囲の表現を変えたもの同士なのではないか、と思っています。
>この考え方に立つと、両者を別々の出願でクレームしても、相互に実質的に同一の発明なので、39条1項又は2項により拒絶・無効になるということになると思いますが、
という部分とも平仄が合います。

2.権利の消尽について
特許権ごとに消尽するか、請求項ごとに消尽するか、学説が定まっていない、とのこと、ご教授ありがとうございます。それを伺って、ある種ホッと致しました。まったくの見当違いでもなかったんだなあ、と。

また、そうであるなら、ワタシとしましては、185条の規定振りから言えば、権利侵害に関しては、特許権は「一体不可分」だから、特許権全体として「消尽する」、という立場を採りたいと思います。またそのように解釈しないと、36条5項後段との関係から、同一の発明が消尽せず結果として二重利得を生ずる事態が起こりうるので不合理であるから、と付記しても良いかも知れません。

以上、ながながと書いてしまいました。ワタシの解釈の誤り、記載不備、ご質問、等ありましたら是非ご指摘よろしくお願いいたします。特に1.については、特許庁がそのような判断をしないとする他の根拠が提示されればあっけなく崩れる論証です。ご指導よろしくお願いいたします。

投稿: toppo | 2012年8月 5日 (日) 18時55分

中堅実務者様。コメントありがとうございます。心から感謝いたします。
(以下は2012年8月 5日 (日) 18時04分のコメントに対する返歌です。)

とても興味深いご指摘で、思わず唸ってしまいました。いや面白いですねえ。

ワタシとしては、これは同一発明であって、両方が特許には成り得ない、という立場です。そうすると、二重取りの問題も生じようがありませんし。

気になるのは、
>徹底して主張した場合には、現行の審査基準では、39条2項違反で拒絶査定にまでは至らないように思います。
という部分です。やはり、先の例で引かれていた化合物Aの例以外に、そのような具体的な審査基準があるのでしょうか?

投稿: toppo | 2012年8月 5日 (日) 19時36分

中堅実務者様。一点だけ、追加で確認です。
ワタシの現時点での理解は、2012年8月 5日 (日) 18時55分と、2012年8月 5日 (日) 19時36分に書いたとおりなのです。

一方、中堅実務者様は
>BBS最判も、あくまで「特許製品を譲渡した場合」に、特許権が消尽すると判示しています。

と書かれています。これは文脈からは、「特許製品を譲渡した場合」に、(当該特許製品に係る請求項の)特許権(のみ)が消尽すると判示していますと仰っているように思えます。

ところがワタシはこれを、
「特許製品を譲渡した場合」に、(当該)特許権(の請求項全て)が消尽すると判示している、
と読むという立場なわけですが、これは間違いではないのですよね?

つまり、これはワタシの元々の論文の結論に関わる重大問題なわけで・・・。

お手を煩わせまして誠に申し訳ありません。ご教授願えれば幸甚です。

投稿: toppo | 2012年8月 5日 (日) 19時58分

先ほど、コメントの途中で誤って送信ボタンを押してしまったようです。

「2.特許権の消尽の単位」の続きです。

先のコメントでも述べたとおり、侵害訴訟の訴訟物や既判力の範囲が、「特許権全体」であるか、「請求項ごと」であるかは、学説が統一されておらず、判例・裁判例でも、そのような争点について判断された事案は未だないと認識しています。

そのため、特許権者による「糸」という「特許製品」の販売行為によって、特許権全体が「消尽」するのか否かは、そのような事件が実際に起きてみないと、何とも分かりかねるところですが、個人的には、特許権全体が「消尽」するという toppo さんの御意見にシンパシーを感じます。

とはいえ、一の特許権には、37条の規定により二以上の発明(別発明) が含まれ得ますし、37条違反は無効理由になっていないので、全く無関係な発明が誤って別々の請求項として含まれている可能性もゼロではありません。

そのような場合まで、特許権の行使の単位は必ず特許全体が一体不可分であり、消尽も一体不可分であるとは言い切れないようにも思います。

次に、2012年8月5日(日)19時36分の toppo さんのコメントへのレスです。

先のコメントに書いたとおり、あくまでも私の今までの実務の経験に基づいた相場観に過ぎず、審査基準の具体的な記載等の根拠があるわけではありません。

ですので、「糸」と「織物」が別発明だと徹底して主張された場合に、39条2項違反で拒絶査定にまで至るか否かは、微妙なグレーゾーンのようにも思えます。仮想例ではなく実際の案件では、個別の事情の全体を総合考慮して判断されることになるでしょう。

最後に、2012年8月5日(日)19時58分の toppo さんのコメントへのレスです。

BBS最判における「特許製品を譲渡した場合」に特許権が消尽するとした判示の読み方ですが、先のコメントにも書いたとおり、侵害訴訟の訴訟物や既判力の範囲が、「特許権全体」であるか、「請求項ごと」であるかは、学説からも判例・裁判例からも、はっきりしない状況ですので、BBS最判の判示から「消尽」の単位をどのように捉えるべきかも難しいと思います。

この論点については、 skiplaw さんが、2012年8月5日(日)00時30分のコメントで示されている、
http://skiplaw.blog101.fc2.com/blog-entry-453.html
のブログ記事で詳しく論じられており、私も大変勉強になりました。

以上です。
あまり十分な回答になっておらず、申し訳ないです。

投稿: 中堅実務者 | 2012年8月 6日 (月) 00時54分

中堅実務者様。コメントありがとうございます。心から感謝いたします。

戴いた2012年8月 6日 (月) 00時54分のコメント冒頭に
>先ほど、コメントの途中で誤って送信ボタンを押してしまったようです。
とあるのですが、相当するコメントが見当たりません?

投稿: toppo | 2012年8月 5日 (日) 19時58分 の後が、
投稿: 中堅実務者 | 2012年8月 6日 (月) 00時54分 となっています。

うわ。軽くパニックです。中堅実務者様のコメントの前半部分が行方不明?

もしも可能でしたら(原稿を別途セーブされていましたら)、再度アップお願いできませんでしょうか(泣)。或いは簡略版でも構いませんので論旨だけでもお願いいたします。誠に申し訳ないです。

投稿: toppo | 2012年8月 6日 (月) 03時01分

 
私の2012年8月6日(月)00時54分のコメントの前に、別のコメントを書き込み途中で誤って送信ボタンを押してしまったつもりが、全く送信されていなかったようですので、改めて書き直します。

toppo さんの2012年8月5日(日)18時55分のコメントへのレスです。

1.発明の同一性について

確かに、私が例示した「化合物A」と「化合物Aを含む医薬」は、物の発明とその用途発明という関係になりますので、toppo さんの仮想例の「糸」と「織物」の関係とは異なり、これらは同列には扱えないかもしれませんね。

そして、「**を特徴とする糸」の発明と「**を特徴とする糸を使用した織物」の発明との関係については、これが39条の審査基準にいう
「発明特定事項に相違点がある場合であっても、実質同一とする」
の類型の一つである、
「周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等を施したものに相当し、かつ、新たな効果を奏するものではない場合」
に該当するか否かは、極めて微妙なグレーゾーンに入るように思います。

ただ、私の今までの実務の経験に基づく相場観では、各請求項に記載された最終的な対象製品が異なる場合には、その発明特定事項の相違は、周知慣用技術の付加・転換・削除に該当しないと判断されることのほうが多いような気がします(この点、具体的な審査基準の記述等の根拠がある訳ではありません)。

しかし、このような事案が39条違反とされるかどうかは、実際の個々の事情を考慮して総合的に判断されるでしょうから、一概には言えないと思います。

とはいえ、この「糸」と「織物」のような関係のものについては、一つの出願中の別々の請求項に記載されるのが通常であり、別々の出願とするのは、同一発明と判断されてしまうリスクもあるため、敢えてしないだけのようにも思います。

ちなみに、この「糸」と「織物」が同一発明だとすると、これらを一つの出願にできる根拠は、37条に規定する二以上の発明(別発明)が「発明の単一性」の要件を満たすことではなく、36条5項後段の、請求項に係る発明同士が同一となることを妨げないという旨の規定、ということになります。

2.特許権の消尽の単位について

消尽の単位が、特許番号で特定される特許権全体であるのか、各請求項ごとであるのか、については、そのような問題について直接的に論じられた学説は未だなく、判例や裁判例も未だないと思います(私が把握しきれていないだけかもしれませんが)。

この続きは、私の2012年8月6日(月)00時54分のコメントを参照してください。

読みにくい書き込みになってしまい、失礼しました。

投稿: 中堅実務者 | 2012年8月 6日 (月) 03時14分

中堅実務者様。コメントありがとうございます。心から感謝いたします。

1.発明の同一性について
了解致しました。実務としてそうなっている、ということと、そのように規定した明確な審査基準があるわけではない、ということ、この2点が分かれば、論文試験向け対策としては十分だと思われます。基本的には39条の審査基準を盾にして、これらは発明特定事項が同じだから同一発明、というスタンスで臨むことにしたいと思います。

また、中県議実務者様の書かれている、
>ちなみに、この「糸」と「織物」が同一発明だとすると、これらを一つの出願にできる根拠は、37条に規定する二以上の発明(別発明)が「発明の単一性」の要件を満たすことではなく、36条5項後段の、請求項に係る発明同士が同一となることを妨げないという旨の規定、ということになります。

という指摘は、以前のコメントでも触れられていますが(その時は逆パターンでしたが)、37条は当初全く意識していなかったのですが、後からジワジワと来ました。ご指摘有難うございました。

2.特許権の消尽の単位について
>先のコメントでも述べたとおり、侵害訴訟の訴訟物や既判力の範囲が、「特許権全体」であるか、「請求項ごと」であるかは、学説が統一されておらず、判例・裁判例でも、そのような争点について判断された事案は未だないと認識しています。

この点、ご教授戴き有り難うございました。随分と気が楽になりました。論点としてそのような状態であるなら論文試験には出しづらいでしょうし、万一出たとしてもワタシ自身としては「特許権全体が消尽する」という立場で一貫性のある論を展開できる気がします。

>とはいえ、一の特許権には、37条の規定により二以上の発明(別発明) が含まれ得ますし、37条違反は無効理由になっていないので、全く無関係な発明が誤って別々の請求項として含まれている可能性もゼロではありません。そのような場合まで、特許権の行使の単位は必ず特許全体が一体不可分であり、消尽も一体不可分であるとは言い切れないようにも思います。

この懸念については、ワタシとしては形式論で切ってしまうべき、という立場ですが、確かに改めて37条の審査基準を読むと、微妙な書き方をしていて、正直、揺れますね。うーむ。少なくとも論文試験的には、形式論で行けるのではないかと・・・。

3.BBS判決の読み方について
>BBS最判の判示から「消尽」の単位をどのように捉えるべきかも難しいと思います。
そうなんですね。了解しました。コレに関しては、先に書きましたように、特許権全体が消尽するという立場から読もうと思っています。が、コレについては異論もあるようですので、他の方(skiplaw様、一企業内弁理士様等)から定説についての基本書等のご教授を戴ければ、再度勉強し直そうと思っています。

以上、一受験生の莫迦な疑問と未熟な議論にお付き合いいただき、誠に有難うございました。
また、ワタシの解釈の誤り、記載不備、ご質問、等ありましたら是非ご指摘下さい。今後とも宜しくお願いいたします。

投稿: toppo | 2012年8月 6日 (月) 04時49分

実務経験のない弁理士試験受験者ですが、思ったところを書かせていただきます。

私は特許権の消尽の範囲は「特許権全体」と考えます。特185条は限定列挙と考えれば、そこに書いていない以上全体を一つの権利と考えるのが妥当だと思います。

ここで、別出願で権利を取得した場合と一出願で権利を取得した場合で権利行使できるかどうかで違いがあるかどうか問題になると思いますが、私は違っており、別出願では権利行使できますが、一出願では権利行使できないと考えます。これはわざわざ別出願で別個の権利として発生させ、一出願するより多くの金額を払っていることの対価を考えたものです。(同一人の場合と別人の場合とで別権利だけど権利行使の可否が変わるのは譲渡などにより判断が変わってしまうので妥当ではないと思います。39条の検討も同様で実質同一なら一律に拒絶すべきだと思います。)

違いがでるところを考えると、布にするのにも特徴があって特許性があるとした場合に、別出願であれば権利行使できるが、一出願の場合は権利行使できないということになると思います。

投稿: MT | 2012年8月 7日 (火) 09時45分

MT様。コメントありがとうございます。心から感謝します。

ですよね?特許権全体としたほうが、シンプルですよねえ?

185条が限定列挙であること、また、別出願とした場合の衡平の観点、ご指摘の通りと思います。ありがとうございます。

いやしかし、今回の議論を通じては、色々と勉強になりました。法律上の論点という意味でもそうですし、実務をされている方の実務感覚と法文上の文言との乖離、という意味でもそうです。特許法、弁理士業界、夫々なかなかに奥が深いなあ、と感嘆しておるところです。

MT様も同じ受験生とのこと。お互い消尽じゃなかった、精進して、晴れて合格を目指しましょうぜ。よろしくお願いいたします。
ではでは〜。

投稿: toppo | 2012年8月 7日 (火) 21時04分

「一出願するより多くの金額を払っていることの対価」って論文試験で書くと、即、落ちますよ。

BBSは、「発明の公開の代償としての対価」とはっきり述べています。実費をたくさん使ったから、たくさん保護を与えるというのは特許法・裁判所の考えから、大きく離れています。

投稿: skiplaw | 2012年8月 7日 (火) 22時22分

skiplaw様。コメントありがとうございます。心から感謝いたします。

成る程。確かにこの書き方ではマズイのですね。
これは脇が甘い、と言われても仕方がないと思います。
ご指摘ありがとうございます。
言葉の隅々まで気を使わなければならない、この感じが、如何にも法律って感じでワクワクしますね。

権利行使できるとすると、36条5項後段の規定から同一である発明が何度も権利行使される可能性があり、また、37条審査基準の規定振りから、事実上特許性について判断されていない発明について権利行使される事となる可能性があり、不合理だからである、というところでしょうか。超短縮版ではありますが。

今後とも宜しくご指導のほど、心からお願いいたします。

投稿: toppo | 2012年8月 8日 (水) 07時18分

skiplawさん、コメントありがとうございます。

確かに、実際に争いになった場合には、消尽した特許製品との関係で、侵害とされた行為の対象となった発明が消尽した発明とは別に新規発明公開の代償としての価値があるかどうかで判断され、同一の特許権か別の特許権になっているかは関係ないと判断されるように思います。

しかし、一般論として形式的に考えた場合の結論としては、別の権利であれば消尽しませんが、一出願としてまとめた以上は全体として消尽すると考えます。その理由はこれまでにも述べられている通り実質的に同一発明での権利行使を防ぐためです。

この別出願と一出願での権利行使の差異を新規発明公開の代償としては公開されている点では同じである以上説明できないと考えたので、自分の中で考えられた理由としてわざわざ別出願で権利化していることを挙げました。また、別出願している以上出願人は別の権利として欲していると考えられることも理由として挙がると思います。

投稿: MT | 2012年8月 8日 (水) 10時07分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 答えは、自分で、なんとか、しろ、と!:

« 【疑問】改善多項制って | トップページ | 議論するって、なんだかわくわく、しますね〜 »