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2010年12月31日 (金)

【書評】アメリカン・デモクラシーの逆説 著者:渡辺靖


アメリカン・デモクラシーの逆説読了◎。(政治学者でも社会学者でもなく)人類学者である著者が、アメリカという社会を25年に亘りフィールドワーク。この社会の中心軸である”デモクラシー”という機構の動作の模様(そして動作不良の模様)を観察・分析した記録。ってゆーとちょっと極端な紹介かな。しかしこの本の面白さの半分はその独特の(人類学者的)視線にあるんだから。うん。

目次はこんな感じ。詰まっているのは逆説と逆説と逆説だあ。例によって”・・・”以下はワシのコメント。生煮えなマトメでスマンな。取り敢えず殴り書き抜粋。

第1章 アメリカン・デモクラシーの光と影・・・カトリーナが暴いたものは何か?政治への不信と他者への恐怖。アメリカ的自由の行き着く先が、ソレであるという逆説。

第2章 政治不信の根源・・・個人献金、ロビイスト、超資本主義=新自由主義、政治的妥当性とイデオロギー=文化戦争。包摂されるジャーナリズム。権力を行使する側も権力を監視する側も超資本主義に包摂されてしまうという逆説。

第3章 セキュリティへのパラノイア・・・ゲーテッド・コミュニティ=新しい中世の増殖。自由の喪失。ヨーロッパで壁が壊れていく時代に、アメリカで壁が作られているという逆説。信仰の世界でのマーケティング手法の浸透=メガチャーチ。近代の象徴であるアメリカで保守派教会の存在感が増しているという逆説。メガチャーチは福祉に於いて新自由主義を補完するが、一方メガチャーチそのものが新自由主義的な論理と力学に従うという逆説。オーディット文化。新自由主義の下で、自らの精神性や身体性さえ自らの責任や判断によって統治・所有することが困難になっているという逆説。私的領域の植民地化。孤独な個人が権力に自ら隷属していく。

第4章 多様性の行き着く先・・・ボストンのバラモンの話。能動的社会関係の構築、服従から交渉へ。個人化・多様化する家族と「家族の価値」。新自由主義と家族の価値の共通項はセルフガバナンス。内包的な自己理解の努力と、対極にある原理主義の台頭。強制バス通学の話。分裂は多様性によるのでなく、原理主義の押し付けによる。市場主義が歪める多様性。農民の小作人化。市場に飼いならされることなく市場を飼いならすことは可能か。インディアン・カジノの例。

第5章 アメリカニズム再考・・・多文化主義が原理化する可能性について。アメリカ例外主義とアメリカニズム。ダブルスタンダード。帝国的動機。ソフトパワーを巡る逆説。タカ派による理想主義的振舞いを懸念してつくられた中立的な概念が、帝国的動機のカモフラージュであると看做された。「アメリカ史のアイロニー」byラインホルド・ニーバー(1952年)。反米主義の本場はアメリカであるという逆説。グローバル化とはアメリカを包摂化していくプロセス。<帝国>的と「帝国主義」的。そして自己修正力。つまりこれら逆説のみにアメリカンデモクラシーを回収することの逆説。

今年アメリカ関係の本は数冊読んだが、オレ、この辺の政治的或い社会的な問題を扱った本を読むには、基本的な素養が欠けているんだな、ってのを改めて自覚しました。この本は、その手の教科書的基礎知識をお勉強する、って意味でも、とても手頃で分かり易かった。例えば、こういう基礎知識。

・連邦政府は「自由への脅威」か、それとも「自由への手段」か。アメリカでは後者がリベラルと称される。ヨーロッパでは保守主義ー自由主義ー社会主義という三竦み。アメリカでは自由主義を前提とした保守主義と、自由主義を前提としたリベラリズムの対立。

・アメリカの保守大連合の中身。強いアメリカの復権を目指す安保保守(ネオコン、新保守主義)。小さな政府を目指す経済保守(新自由主義)。「伝統的価値」の回復を目指す経済保守(宗教右派)。従来からの穏健保守(オールド・リパブリカン)。

そしてそいういう教科書的な読み方だけでなく、読み物(というとちょっとアレですけど)としても、非常に面白い。なんて言うんでしょう、意表を衝かれる感じというか。異質な社会を旅するSF的な読み物を読む感覚で、怒りながら驚きながら感心しながら、読んでいました。事実は小説より奇なりっていうかさ。もちろんそんな読み方は著者の望むところではないだろな、ってのは分かってますけどね。なんにしろ、アメリカ社会の手触りの正体と、今、世界の置かれた状況がなんとなく見えてくる、ええ本です。一読をお奨めします。

さてと、んな訳で今年ももうすぐ終わりですな。最後の書評がこんな雑なメモ書き抜粋でなんだかちょっとアレなんだけど、ま、しょうがない。そのうちもうちょっと整理することもあるでしょう。それでは、みなさま良いお年をお迎えください。

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