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2010年3月13日 (土)

【書評】巡礼 著者:橋本治

巡礼読了◎。吉田婦人である美咲の家の、道路を挟んで向かい側に、ゴミ屋敷と呼ばれる家がある。男が一人で住んでおり、ゴミを集めてきては敷地に溜め込んでいる。保健所にゴミを捨てろと言われれば、これはゴミではないという。そうなると保健所は手を出せない。悪臭に耐えかねて抗議をしても、取り合わない。美咲は知らないが、その場所には嘗て、丸亀屋という屋号の商家があり、普通の生活が営まれていたのだ。いったい何があったのだろう。男は何をしているのだろう。男はどうしたいのだろう・・・。

第一章 ゴミ屋敷
第二章 家族
第三章 巡礼

昭和だ。歴史だ。時代の雰囲気だ。オレの親がちょうど主人公の忠市と同年代くらいだよ。んで、商家の跡取りで。ヨメを貰って。ヨメと姑の確執があって。商売がうまくいかなくなって。こういう感じで”時代に翻弄”された世代だよなあ。ここに書いてあることはほぼそのまま当てはまるんだよな。オレも一歩間違えたら(即ち大学へ行くことで東京に出てくるってことがなかったら)、商家の跡取りとして”イエ”継いだりしてた可能性もあった訳で、そう思うとなんだか身につまされるというか。次に何が起こるかなんとなくオレは知っている、というか。んで、ホントにここに書かれているような事件は確かに起きた。脳溢血で倒れる父親、道路拡張の噂、住民の変化、商売替えの計画。どれもあった。あったぞ。ホントにあった。確かにあったのよ。

しかしその”時代の再現力”は凄いね。ツボを衝いている。これは橋本治にしか書けない小説、だよなあ。ある時代を俯瞰して、その時代が個人の生活に影響を及ぼさずには措かなかった、その流れの最も大きな部分を捉える。と同時にその流れの中の個人の心の中を再現する。本人が曖昧にしか認識していない部分を”曖昧にしか認識していない”まま再現する。参りました。脱帽です。

読んでさあ、オレ親のことを思い出したんだよな、久し振りにな。父親は脳溢血で倒れて右半身不随。母親はちょーっとアルツハイマー気味。でもなんとか二人で暮らしている。そんな二人が生きてきた時代が、ここにちゃんとオレにもわかるように再現されているんだよね。変な話ですが、読まなきゃオレわかんなかった。いろんなことが。そういう”時代”だったってことが。その”時代の歪み”みたいなものが人生にある種理不尽な影響を与えて、そして今があるということが。

そしてね、それだけじゃない。それを知らず、”現在の目”で見ている、例えば”美咲”の世代、今という時代もまた、同じようにある種のバイアスが掛かっていて、人々は自分で は気づいていないが実はその中で翻弄されているだけなのだ、ということをも相対的に浮き彫りにする。

ちょっとこう、冷静には読めない感じですがな。こういう効き方もあるんだな。ちょっと特殊な小説です。オレらの世代、オレらの親の世代にとっては特に。微妙に重く、微妙に哀しく、微妙にやるせない。うん。一読をお奨めします。

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