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2010年2月 6日 (土)

【書評】心の仕組み~人間関係にどう関わるか〈中〉 著者:スティーブン・ピンカー

心の仕組み〈中〉読了◎。副題は「人間関係にどう関わるか」。おなじみ、進化心理学者スティーブン・ピンカーによる、我々の持つ”心”という”器官”の仕組みについての出色の解説書にして仕様書にして取扱説明書、その中巻。(上巻の書評はこちら。下巻の書評はこちら。)

中巻の内容はこんな感じ。
第4章 心の目-網膜映像を心的記述に転じる-
第5章 推論-人は世界をどのように理解するか-
第6章 情動-遺伝子の複製を増やすために-

ピンカーは”心”という”器官”の仕組みを、基本的にいくつかの演算器官が競合しつつ共同で働いている系として捉えている。そしてそれぞれの演算器官の機能を調べる手段として、リバースエンジニアリングの考え方を用いる。即ち、ここにあるこれは、自然淘汰の圧力の下でどのような利益を個体にもたらしてきたのかを問う。

上巻では、この考え方を使って”心”を研究することの意味とメリットを述べ、予想される反論を予め潰しておいた。その上で、”心”の機能のうち”知能”に目を向け、それが何なのか、何故我々は知能を持つのか(何に適応した結果なのか)、を調べていった。

中巻では、同様に”心”のまた別の機能、”認識”と”推論”と”情動”について調べていく。(第4章を”認識”と要約するのはちょっと乱暴かもしんないけど、いい、許す。)

全体の見取り図としてはこんなトコ。これを意識して読まないと道に迷うことがある。ピンカーは根が学者なんで、ってゆーか、学者なんで、要約した結論だけを示すのをよしとしない。その結論に至った思考過程を丁寧に展開して書く。面白いし説得力が増すのは間違いないが、テーマによっては細部が”濃すぎて”、全体の見取り図が頭に入ってないと、何の話をしているのか分からなくなったりする。

個人的には、”認識”と”推論”はわりと慣れた論の展開で、興味深いが、あまり新鮮さが感じられないな、と思いつつ読んでました。副題である「人間関係にどう関わるか」ってテーマからも遠い、って思っちゃうしね。(あくまで個人的には、ですよ。内容は面白いですよ。そこんトコ誤解しないでね。)

んで、これも個人的には”情動”がめっちゃ面白かった。なんでか、ってーと、ちょっとアスペル君なワタシにとって、わお!新鮮なんですな。この話題は。「人間関係にどう関わるか」ってテーマにも乗ってるし。情動とは何か?何のために情動はあるのか?非合理的な情動、それを抑圧する理性というロマン主義的な考えは正しいのか?・・・なんだかわくわくしますね。(え?オレだけ?)

ってわけで、自分が感情的で社会との折り合いが悪いな、と思っているそこのアナタ。或いは自分が人の気持ちがわかんなくて社会との折り合いが悪いな、と思っているそこのアナタも。中巻の第6章だけでも、一読をお奨めします。イイよぉ。

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以下メモ書き。
第6章 情動-遺伝子の複製を増やすために-
”ダンブレーンの悲劇”のエピソード。「アモク」を誘発するのはある”観念”である。
・普遍的な情熱・・・ある”感情を指す言葉”がないことが示すのは。Schadenfreudeとか(笑)。人前で感情を出す出し方は社会により異なる。しかしそれは”出し方”。
・感じる機械・・・情動は知性と調和して働く、モジュール。その目的は遺伝子の複製の促進であって、幸福や知恵や道徳的価値観の促進ではない。そこに問題が。それは誤動作ではない(笑)。情動のプログラムを作り直した例、ボノボ。皮質と辺縁系と扁桃体。
情動は脳の最高次の目標を設定するメカニズムである。情動が思考や行動などの下位目標のカスケードの引き金を引く。物に関わる情動と人間に関わる情動。
・郊外住宅地というサバンナ・・・我々の祖先はサバンナに適応し、その他のあらゆる場所に適応した。だから。
・思考の食べ物・・・食べ物のタブー。頑固な民族標識。動物性のものはほぼ常に嫌なもの。目に見えない汚染物(バイキン)。生後2年間。雑食動物のジレンマ。カロリー源を広く取れるが、有毒物摂取の危険。アニマトリスと大型動物。大型動物が効率がいい。それから生態的・経済的な意味(インドの牛etc.)。近隣部族の好物を禁じることで、集団を維持。
・恐怖のにおい・・・恐怖は我々の祖先が遭遇する危険に対処する動機付けとなった情動。もはや存在しない危険から我々を守る。進化の欲求。危険を中和する自分たちの能力と照合して中和する。成人の恐怖症は消えない子供時代の恐怖である。恐怖を選択的に克服する能力。予測がつくこと、味方がいること、適切な資質。
・幸福の心理・・・幸福とは?生物としての適応度に対する報酬。適応度と奮闘のバランス。今の環境の中で相応の努力によって獲得できるもの。他の人が獲得できているかどうか(笑)。マイナスの情動はプラスの情動の2倍。適応度の増加は収穫逓減を示す。だから。失う見通しに注意を払う(!)。
・人生は短い・・・褒美を先延ばしに出来る能力、自制心、「充足の引き伸ばし」。割引。繁殖のための努力は一種の経済。ユダヤ人夫婦のジョーク「面倒は起こさないで!」(爆笑)。犯罪者は未来を不当に高い率で割り引く。その理由は実は。
近視眼的な割引。確実なものを扱う回路と不確実なものを扱う回路。
・我と汝・・・最も激しい情動を喚起するものは、人である(!!!)。適応は複製者を利する。動物が利己的に振舞うのは情動の回路がそのように配線されているからだ(!)。複製されるのは遺伝子であって体ではない。つまり、利己的なのは遺伝子であって、体ではない。脳の遺伝子と生殖腺の中の遺伝子の関係(笑)。血縁関係。利他行動、愛情。個人の真の動機と遺伝子のメタファー的な動機。愛や共感や感情移入は別々のからだにある遺伝子を結びつける目に見えない糸である。
道徳的な情動は互恵ゲームから作られる。人間のライフスタイルや心は互恵的利他行動の要求に特に適応している。言語が伴うと情報は理想的なやりとりの品(しな)になる(!)。
「裏切り者検知」「しっぺ返し戦略」。「もっと巧妙な裏切り戦略」「復習としての他の相手との取引」。”好意”と”怒り”。”感謝”と”同情”。”罪悪感”と”恥ずかしさ”。そしてこれらの情動の模倣。”信頼”と”不信”。偽善探知のための噂話。評判は最も価値ある財産。互恵的利他行動に必要な情動にあおられた認知の軍拡競争(笑)。
情動は本物であった。なぜなら偽の情動の検知装置が進化すれば情動は心からのものであるときに最も効果的だから。心の働き方と望ましい心の働き方を混同してはいけない(その通り!)。人間の情動は集団にとって都合よくデザインされていない。
・終末兵器・・・映画「博士の異常な愛情」。戦略の争いでは相手がどんな反応をするかを予測して、行動を計算する。これは社会生活に普遍的。さて、交渉。逆説的な戦略。選択の自由を自発的に撤去できない形で犠牲にする。約束にも。脅迫にも。脅迫に対して身を守るには、脅迫者が要求を出来ないようにしてしまうこと。「運転手は金庫の錠の番号を知らない」。
いつ爆発するか分からない短気な人は戦術的有利さを享受する。意思や理性の放棄こそが、社会的関係をつくりあげている、無数の取引や約束や脅迫のなかで、効果的な戦術となっている(!!!)。ロマン主義モデルの逆転(!)。知性は疑惑を否定する保証として熱情を作用させるために、熱情に対するコントロールを放棄するようにデザインされている(!)。制御不能であることが抑止力になる(!)。報復の欲求はとりわけ恐ろしい情動。
秘密にしていたのでは最終兵器の意味は失われる。それが感情が顔に出る理由。
・ほれっぽい人・・・結婚市場と賃貸住宅市場。合理的な理由であなたを選ぶパートナーと、あなたがあなただから一緒にいたいというパートナー。情動にしばられた。それは見せ掛けでないことの保証になる。
・感性の社会・・・思考と感情が支配権を巡って争う。心のエージェント同士も、逆説的な戦術を使っているか?我々は逆説的な戦術を自分自身に対して使う。悲しみの持つ意味。内面の終末兵器。抑止力。
・自分をだます・・・トリヴァースの自己欺瞞説。意識に上る心は、真実を他社に隠すために自分に隠す。しかしその真実は有用なので、他者と相互作用をする心とは別の部分に留めておかなければならない。ガザニガの観察、動機の偽の説明。ベネフィクタンス。自分の善意と有能さについて自分を騙す。認知的不協和の逓減を行う。ネガティブな批判がぐさりと刺さるわけ。
我々が認識し恐れるべきなのは、情動自体の巧妙なデザインである。その仕様書には喜びや理解のためでないものが多数ある。幸福のトレッドミル、セイレンの歌、恥の感情、最終兵器、ロマンスの気まぐれ、悲しみという意味のない罰。そして自己欺瞞。
喜ばしいことに、だまされっぱなしになっているわけではない。なぜなら、心の一部は美徳のためにデザインされ、また一部は理性のためにデザインされているし、どちらでもないものを出し抜く利口なものもあるから。ある自己が別の自己をだます場合もあるが、ときどきは第三の自己が真実を見ている。

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コメント

<ご挨拶>

twitterフォロー有り難うございます。これからもよろしくお願いします。

普段音楽をやっておりますが、残念ながら私は読書をあまりする方ではないので、してももっぱら音楽関連の書物ばかりです。

このブログのタイトルを借りるならば、「何の為に修行する→音楽の為」ということになりましょうか。

最近はミックスとマスタリンスに関する本を読んでいます。おもしろいですが、専門の方でないと意味不明なんですけどwww

http://books.yahoo.co.jp/book_detail/AAY14495/
http://item.rakuten.co.jp/dj/all-about-mastering/

漫画は結構読みます。
最近のお気に入りは「聖☆おにいさん」です。イエスとブッダが下界でだらだら暮らす話ですが、シュールで面白いですし、宗教にも取っつきやすいです。

http://kc.kodansha.co.jp/content/top.php/1000003315

そんなこんだでよろしくお願いします。

投稿: shoma1983(やま△) | 2010年2月 7日 (日) 10時54分

shoma1983さん、こんちは。
コメントありがとうございます。
ブログ拝見しました。ってゆーか、作品、聴きました。仰天!むちゃくちゃクオリティ高いじゃないですか!?凄え。
尊敬します。
こちらこそよろしくお願いします。

投稿: toppo | 2010年2月 7日 (日) 13時17分

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