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2009年12月12日 (土)

【書評】お金と幸福のおかしな関係 著者:マティアス・ビンズヴァンガー

お金と幸福のおかしな関係読了○。副題は「トレッドミルから降りてみませんか」。トレッドミルって、いわゆるランニングマシンですね。 モーターで回転するベルトの上を歩いたり走ったりする有酸素運動マシン。トレッドミルの上では、いくらでも速く走ることが出来るし、いくらでも速くベルトを回すことが出来る。しかし人はその場所から動くことは出来ない。当たり前の話だが。収入を増やしてもっと幸せになろうとする努力も、これとまったく同じことなのだ・・・。

著者はスイスの政治学博士で経済学の教授。第二次世界大戦後の西ヨーロッパの生活の変化を例に引き、また、各国で過去に行われた調査を取り上げ、経済学者らしく客観的な記述で、収入と幸福のおかしな関係について綿密に論証していく。これが第一部。

第二部では、平均収入が増加し続けているにもかかわらず、人々がそれによってより幸福になることを阻んでいる4つのトレッドミル効果について解説する。即ち、ステータス・トレッドミル、要求トレッドミル、マルチオプション・トレッドミル、時間節約トレッドミル。

そして第三部では、第一部、第二部の内容を踏まえ、どうすればより幸福な人生を送れるのか、10個の具体的な戦略をアドバイスする。

戦略その1-正しい池を選べ(ステータス・トレッドミル)
戦略その2-モノを増やす代わりに魅力的な社会生活を(マルチオプション・トレッドミル、要求トレッドミル)
戦略その3-ベストを求めるな(マルチオプション・トレッドミル)
戦略その4-家庭生活にストレスを与える生活スタイルを避けよ(時間節約トレッドミル)
戦略その5-空間と時間の柔軟な使い道を有効に活用しろ(時間節約トレッドミル)
戦略その6-効率、革新、競争力、改革を称揚するな(時間節約トレッドミル)
戦略その7-義務的な制限を導入しろ(時間節約トレッドミル、マルチオプション・トレッドミル、ステータス・トレッドミル)
戦略その8-ランキング・マニアと戦え!(ステータス・トレッドミル、要求トレッドミル)
戦略その9-国家による再分配を増やす代わりにトップサラリーを制限(ステータス・トレッドミル)
戦略その10-世の中を楽しむ術を学べ(すべてのトレッドミル)

すごく斬新で、目からウロコがぽろぽろ、って本ではない。むちゃくちゃ面白い!って本でもない。「お金で幸福は買えない?はいはいわかってますよ」っつってスルーしたくなる感じ、わかりますよ。私もそうだったんで。でも、自分で思ってるほど、このことはわかっていませんでした。うん。あなたも。たぶん。

スタンスが明快。狙いを絞っている。一般に、幸福を扱いだすと、話は果てしなくややこしく抽象的になりがちですね。この本ではそこをバッサリ割り切って、収入がどれほど人々の幸福に影響を与えるのか、またなぜ影響を与えるのか、ということだけに集中している、この経済学者らしい割り切りが奏功していると思います。ってわけで、結構いろいろ考えさせられる良書でしたよ。

一例を挙げると、友人や家族とのおしゃべりや食事をしているときに幸福を感じる、という調査結果は意外でもなんでもない。そのとおり。ワシもそう。でも、じゃあそれを大事にしているか、って改めて自分に訊いてみると大事にはしてなかったなって思い当たる。それを幸福と結びつけてすらいなかったっていうか。そしてそういう日々の幸福の積み重ねが、幸福な”人生”なんだ、っていうのはちょっと意表を衝かれる感じがしたな。It’s a Beautiful Day!そのことは知ってたはずなのに。すぐに忘れてしまう。困ったものだね。

アドバイスについても精神的な訓戒めいたもの(他人と比べるのはやめなさい、とか、高望みはやめなさい、とか)や道徳的な説教(もっと感謝の気持ちを、とか)に逃げず、あくまでも現実に対処するための戦略として提案されている。いいねえ。このスタンス。

ってわけで、一読をお奨めします。

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