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2009年9月 8日 (火)

【書評】ダンシング・ヴァニティ 著者:筒井康隆

ダンシング・ヴァニティ読了◎。虚構と現実の関わりについて書き続けている著者の最新長編。主人公は美術評論家の「おれ」。夢の中で夢を見た本人が死ぬと、現実に死んでしまうという"死夢"が流行っているという。これは誰の夢なのか。同じ事件が少しづつ角度を変え、繰り返し繰り返し起こる・・・。

最新、ではないのかもしれない。出版は2008年1月。ネットで検索すると2008年8月にビアンカ・オーバースタディという本(ジュブナイル?)を出しているようなのだが、何故かアマゾンでは売ってない。でも、ま、最近の作(昔の作品の再録とかでなく)、ということで。

中学生の頃からの読者だから、正直言うと、書評なんて畏れ多いって思ってしまうんですけど。読んだら書く、ってのが目下のルールなんで(マンガは除く、いや書きたい気はするんだが、マンガだとたくさん読めてしまうので、書くのが追いつかなくなるんですよ)、取り敢えず書きます。

書かれた現実は既に現実ではない。現実は書かれた瞬間に虚構になる。ならば書かれたものとして見れば、現実と虚構を区別することは出来ない。両者は共に「言葉で出来ている」。その、言葉で出来ている世界の登場人物にとって、虚構は現実である。一方、現実世界から見ると、虚構は虚構である。では、虚構世界に置いて、この世界が虚構世界であることを知っている人物がいるとする。そのとき、この人物にとってこの世界での現実を書くことは、虚構世界で虚構を書くことなのか。それとも虚構世界で現実を書くことなのか。それとも現実世界で虚構を書くことなのか。それとも現実世界で現実を書くことなのか。

んなこた、どうでもいいじゃん?そうですね、どうでもいいっちゃどうでもいいんですけど、そう思う感じは良くわかるんですけど。でも、なんでそう思う(どうでもいいじゃん、って思う)かというと、現実は現実で虚構は虚構だから、という確信があるからですな。少なくとも今読んでいるこれは、書かれた世界であるという意味で、間違いなく虚構である、それに対して今自分がいる世界は現実であると。

でもね、小説はそもそも自分以外の視点を体験することの出来るツールですから、それはそれとして、現実が虚構で虚構が現実である世界の主人公の立場に立ってみることは可能ですね。この小説の場合主人公は一人称の「おれ」ですから、この小説を読むことが、そのまま、主人公の立場に立つことになります。読者は、書かれている虚構を読んでいる現実の存在であるという意識と、書かれている虚構の中の存在であるという意識の、両方を持ちつつこの作品を読む。

この虚構世界はどんなルールに従っているのか。主人公がこの世界は言葉で出来ていることを知っていることを前提とする、というルールです。そんなことは作品中にはひとことも出ては来ませんが。根本的なルールというのはそういうものですね。この世界のルールは、なんていちいち説明はしない。あまりに当たり前でそんなものがそこに存在することすら気がつかない。ただ一貫してこの虚構世界はルール(法則と言ったほうがわかりやすいか)に従う。

言葉は意識で作られますから、この小説は主人公の「おれ」という意識が言葉を使って世界を作っていく小説になります。意識の中では時間も空間もない。その意識に特有の癖でもって、何度でも事件が反芻され、反芻するうちに細部が変質していく。その意識の運動は、いつまで続くのか。それは・・・。

さて、なんとなくノリで書いてしまいましたが。どうでしょう。ボケてたらゴメン。

筒井さん、年取ったなあ。いやべつに衰えた、とかいう意味では全然なく、年を取った。そりゃ中学生が40代後半になるんだから、年もとるわな。これは、年を取った筒井康隆でないと、書けない小説ですから。何かに似ているとしたら、そう、私小説、という言葉が頭をよぎりました。それはそれは。それはある種日本文学史上の皮肉とでも申しましょうか。長生きはするものですねぇ。取り敢えず一読をお奨めします。

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