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2009年9月20日 (日)

【書評】思考する言語(上) 著者:スティーブン・ピンカー

思考する言語(上)読了◎。副題は「言葉の意味から人間性を考える」。原題は(たぶん)「The stuff of thought」。本書には原題が明示されていないのでネットで見当をつけた。直訳すると思考の材料。

上中下巻、全部読んでから書評を書く、ってのがこのブログでの今までのスタイルでしたが。この「思考する言語」に関しては一冊読むごとに書くことにしたいと思います。盛りだくさんで中身が濃い。メモを取っておく必要があるんで。最後まで読むのを待ってられない。

もともとは英語学習の一貫として読んだのですが、これが滅法面白い。英語について英語のネイティブが書いた本ですが、だからこそ日本人の英語学習者にとって重要な示唆に富みます。英語学習者として、目からウロコの連続。ネイティブの頭の中で英語がどのように処理されているかのヒントにもなります。そしてそれ以外に、思考について、社会について、人間について、哲学的な観点からも楽しめる。内容がぎっちり詰まっているので、決して軽くは読めないのですが、言語学者独特のギャグが随所で炸裂し、読み物としても秀逸です。わお。一読をお奨めします。

英語学習者としての余得。覚え書きでホンの一例を挙げます。

英語の動詞は、文の構造を決める。I loaded hay onto the wagon. これを内容所格構文という。I loaded the wagon with hay. これを容器所格構文という。動詞loadはどちらの構文も取る。しかし、I poured water into the glass.とは言えても、*I poured the glass with water.とは言えない。I filled the glass with water.とは言えても、*I filled water into the glass.とは言えない。この差は何によって生じるのか。動詞の意味?しかしloadもpourもfillも全てあるものをどこかへ移動させることを示し、登場する要素(移動させる主体、移動する内容、移動の到達点である容器)も同じである。なのになぜ?日本人にはなかなかピンと来ない。

ここで認知上の図と地の反転という概念を導入する。

意味的な再解釈のルール:もし動詞が「AがBをCに移動させる」という意味を持つなら、それは「AはBをCに移動させることによって、Cを変化させる」という意味にもなる。

意味と形を結びつけるルール:影響を受ける対象を直接目的語として表現する。

つまり、pourは水が上から下に注ぐ、という様子に注目する動詞で、その結果どうなったかを気にしない。fillは容器が一杯になる様子に注目する動詞で、その過程を気にしない。だから、pourは内容所格構文しかとらず、fillは容器所格構文しかとらない。

目からウロコが落ちませんか?ついでにもうひとつ。別の側面から。二重目的語与格構文。

throw him the box (彼に箱を投げる)とは言えるが、*lift him the box (彼に箱を持ち上げる)とは言えない。tell him the news (彼にニュースを話す)とは言えるが、*mutter him the news (彼にニュースをつぶやく)は奇妙に聞こえる。

何かを移動させることと何かを所有させることの間には図と地の関係がある。逆に言うと、二重目的語与格構文には、所有させること、というニュアンスがある。動詞に意味があるだけでなく、構文にも意味がある。だからある構文と相性のいい動詞、悪い動詞がある。逆に、構文の意味を使った、英語独特の(日本語に訳せない)表現がある。

Thank me no thankings, nor proud me no prouds. (ロミオとジュリエットより)

意味は、私に感謝しろその結果私は感謝を所有しない、からつまり、これは私に感謝することで、私が喜ぶとは思うな、私を誇りに思うことで私が喜ぶとは思うな、という意味。構文の持つ意味、という視点がないと、これはまず普通の日本人には理解不能じゃないですかね?これは決して古英語ではなく、今でも新聞やインターネット上に溢れている表現だそうで。

UT me no UTs. (もうこれ以上UTなんて使うな。アメリカの州の住所表記をアルファベット二文字で省略するやりかた-ユタ州をUTと書くように-は、見苦しいのでやめてくれ、という内容の記事のタイトル)

Jeff Malone me no Jeff Malones. (私にジェフ・マローンすることで私はジェフ・マローンを所有しない。NBA選手のジェフ・マローンがオールスター戦に選ばれるに値しないという趣旨のスポーツ記事のタイトル)

面白い面白い。

そしてこの本の真の面白さはここから始まるんですよ。このルールを拡張していき、人間の心にとって(脳にとって)、図として捉えられるのは何か、地として捉えられるのは何か、その根源的な要素を探していく。人間の脳の持つ認知の生得的な傾向を。それらを組み合わせる生得的な傾向を。

原題のstuff of thoughtというのは、これらを指しています。よくある、言葉が思考を形作る、という話(言語決定論といいます。実際、著者は本書を執筆中「言語と思考」についての本を書いているというと、「言語が思考をどのように形作るのか」についての本だと必ず誤解されるので、言うのをやめた、と書いています。)ではなく、これら心の傾向、が動詞を=言葉を作っている、という話。著者はこれを思考の言語と呼びます。幾つかの生得的な傾向があり(要素、つまり単語にあたる)、それはある規則に従う(ルール、つまり文法にあたる)、だからこれを一種の言語と看做して分析することが可能だ、というわけですね。

現実に起きている現象を言語は反映する。言語学者はその言語を分析することで、現実に起きている現象を説明してみせる職人だと思いますが(例えば現代英語が動詞walkを使わずにhave a walkという言い方を好むのは何故か)、この本の研究がユニークなのは、その方法論を言語自体に適用して、言語という現象を説明しようとしているからだと思います。自己言及的入れ子構造。オレこれ好きなんだよなー。わくわくしない?

それって、英語の話でしょ?と思うでしょう?英語学習の効能はわかるけど、哲学とは関係ないじゃん、と。いえいえ。思うに、日本語でも基本的な構造は同じですよ。ただ現れ方が違うだけで。日本語の場合は、助詞がその辺の機能を担っているのだと思います。「彼女がロンドンに着いた。」という文は「彼女はロンドンに着いた。」という文と比べて、ちょっとだけ違和感があるでしょ?そしてその違和感の原因を、ネイティブの日本人は言葉ではうまく説明できない。外国人の日本語学習者がよくつまづくのもココです。うちらが間違った構文を使ってしまうのと同じ。

未整理の苛立ちもある。基本的な概念は何と何なのか。いくつあるのか。ここで言う個々の解釈と、時間・空間・力・物質という概念の層との関係は?与格構文の分析で出てきた、人の助けになることと人の害になること、瞬間的なことと時間を掛けること、等の区別は、どこに位置づけられるのか(いやこれも空間のメタファーで、人間特有の癖ですな!)。まだ頭の中で整理しきれてないよー。それの応用としての基本動詞イメージ一覧表も。いっそチャート式みたいに図にまとめて!お願い!って思うんですけど、それはない。少なくとも上巻には。

上巻だからか?著者の興味がオレとは微妙に違うところにあるからか?ま、中下巻と進むにつれその全てが一覧できるようになる・・・。のか?ホントに?

ってことで、読んだら書く、なるべく早く、というルールに従い、取り敢えずアップしとく。てか、書きすぎだ。800字位が適量なのにね。これ、やってたらいつまでたっても終わらん。生煮えでとっちらかっててすみませんねえ。いつか(いつだ?)整理しますんで。
(【書評】思考する言語中巻はこちら。【書評】思考する言語下巻はこちら。)

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覚え書き。スタート地点。人間の思考プロセスに於ける4つの重要な性質。

1.人間の心はあるひとつのシナリオを幾通りにでも解釈することが出来る。

2.個々の解釈は「出来事」「原因」「変化」「意図」などの幾つかの基本的な概念によって構成されている。

3.これらの概念は他の領域にまで比喩的に拡張することが出来る。出来事をもののように数えたり、空間を時間のメタファーとして使ったり。

4.個々の概念には人間に特有の癖がある。

覚え書き。思考の言語を構成する主要な単語のざっとしたリストアップ。

1.基本的概念・・・事象、状態、もの、経路、場所、性質、様態

2.基本的概念同士をつなげる関係・・・~をする、~に行く、~に/である、~を持つ

3.存在物の分類・・・人間と人間でないもの、生物と無生物、物体と材料、固体と集合、柔らかいものと硬いもの、一次元と二次元と三次元

4.場所や経路を定義する空間的概念の体系・・・~の上に(on)、~に(at)、~の中に(in)、~(to)に向かって、~の下に(under)など

5.時間軸・・・事象の順序を示し、瞬間的な時点なのか、区切りのある期間なのか、区切りのない領域なのかを区別する

6.因果関係・・・(意図的に)~させる(cause)、(自然にまかせて)~させる(let)、~出来るようにする(enable)、~させないようにする(prevent)、~を妨げる(impede)、~を奨励する(encourage)、

7.目標の概念、及び手段と目的との区別

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コメント

初めまして。大好きなスティーブンピンカーの書評!、とこちらを覗かせていただきました。この本、本当におもしろくて、知的にわくわくしますよね。
私は、趣味は英語学習、本業では心理学、アスペルガーっぽいキャラの立った家族に囲まれて暮らしており、toppoさんにも一方的に親しみを感じてしまいました。
これからも時々寄らせていただきますので、どうぞよろしく。

投稿: deko | 2009年10月 5日 (月) 10時18分

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