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2009年9月21日 (月)

【書評】カラシニコフ銃 AK47の歴史 著者:マイケル・ホッジズ

カラシニコフ銃AK47の歴史読了○。副題は「世界で最も愛された民衆の武器」。1947年にミハイル・カラシニコフによって開発され、ソビエト連邦軍に正式採用された突撃銃AK47。その信頼度の高さと取り扱いの容易さから、派生モデルも含めると現在1億丁が世界中で出回っていると言われ、皮肉を込めて「小さな大量破壊兵器」と呼ばれる。中東を中心に活動するジャーナリストである著者が、AK47の誕生以来、この銃が紛争に与えてきた影響と、この銃のイメージの変遷を追い、第三世界を中心に、各地に現出するカラシニコフ的社会状況をレポートする。

著者はこの銃に魅せられています。この銃を通して、現代史を語ろうとしているように見えます。選ばれている時代と場所。第一章は開発者ミハイル・カラシニコフの故郷イジェフスクの現在。第二章はミハイルの伝記とAK47開発の経緯、1940年代~50年代。第三章はヴェトナム戦争、1960年代。第四章はパレスチナ、1970~80年代。第五章はスーダンの少年兵士、1980~90年代。第六章以降はほぼ現在の話で、第六章はイギリスで育ったパレスチナ人。第七章は2003年5月のブッシュ大統領の戦争終結宣言後のイラクの現状。そして第八章は、現在のアメリカ。

各章の独立性は高く、興味のある章だけを読んでも大丈夫なほど。AK47を離れても物語として読めます。文体に関して言うと、聞き書きを物語りに仕立てた第二章、第三章、第四章、第五章は読みやすい。第六章は語られる物語と取材している現在が入り混じり、第一章、第七章、第八章はルポルタージュの文体。個人的には第五章のスーダンの少年兵士の話が最も印象に残りました。

ソ連の正式採用銃から第三世界の革命の象徴へ。そしてテロリストのトップブランドへ。客観的に見て、この銃がここまで世界の小火器市場を席巻出来たのは、機能(信頼性、分解掃除の簡単さ)、生産性(生産が容易、且つ安価)、政治状況(冷戦下ソ連が中国・北朝鮮を始めとして東側各国にライセンス供与、その後コピー品の闇生産が拡散)、の3点に於いて優位性を持っていたからですが、その全てはこの銃の極力単純な構造に起因します。最もシンプルな解が最もエレガントな解だ。個人的には、その意味で単純にすごいな、と賞賛する気持ちが湧くのを止められん。

でも、コトはそう単純ではないんだよな。それはそれとして、その結果生まれている社会状況、カラシニコフ社会の現出を見ると、一種絶望的な気分になります。取り返しのつかないことをしてしまったんじゃないか、という感情が湧く。

著者の言うカラシニコフ社会とは、膨大な数の銃のせいで文明社会が自らを主張することも殺人をやめさせることも出来なくなった社会。社会のすみずみまで銃が行き渡った結果、警察力が無効になり、秩序の維持が昔ながらのお互いの力の均衡によるものになってしまった社会。圧倒的な殺傷力が、個人ひとりひとりのものになってしまったとき、何が起こるのか。圧倒的な殺傷量とは、とか、理論上、どうこう、でなく、実際にそれが手に入る、ってとこがポイントなんだよな。安価に大量生産出来てしまった、それを大量に供与した、ばら撒いた、ってとこがね。もう戻れないところまで。

第五章に込められたメッセージはそういうものです。そしてそれは六章・七章を経て、第八章のアメリカに行き着く。それは第三社会だけの話じゃない。アメリカが実はカラシニコフ社会と親和性が高いと言う皮肉。現代史理解とアメリカ理解のサブテキストとして一読をお奨めします。

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